{ スタッフコラム }2017.01.31

『想いをもって働きたい』

FromKitchen料理教室認定講師 岩崎彩子さんのコラムです。
彩子さんは、From kitchenに生徒として通ってきてくれていました。
これから自宅で「暮らしの寺子屋」をはじめます。
その中の「食」はFrom kitchenでの学びを伝えていきます。

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『想いをもって働きたい』

その日はいつもより緊張感のある朝だった。
けれど、落ち着いて朝ごはんとお弁当作りができたのは、
前夜の私がひと頑張りしたおかげ。
それでも慌ただしい我が家の朝。
長男を送り出し、家事を終え、
無事に次男,三男を連れて出発できた時の安堵感。
ほぼ一番乗りで次男を幼稚園に送り、そのまま駅へ向かう。
1歳になりたての三男を抱っこし、電車に揺られ柏から代々木上原まで。

ようやく到着した、FromKitchen(以下FK)事務所、扉の前。
FK料理教室認定講師0期生講座の初日だった。
一つ深呼吸をして、「よろしくお願いします。」と小さくつぶやき、扉に頭を下げた。
認定講座の間中いつも、まるでおまじないのように同じことをしてから、扉を開けた。
かけがえのないエッセンスを感じ、学び取れますように、と。
大げさではなく、私の人生の新しい物語がここから始まる、という予感がしていた。

ガイダンスとして、FKが始まった経緯や、込められた想いなどを聞いた。
中でも利香さんのこの言葉が私の心を捉え、ざわざわと鳥肌がたつ感覚が全身を走った。
「女性が想いをもって働いて欲しい。
好きなことをお仕事にして収入を得て、税金を払って。
経済的に自立して、自分で得たお金でおいしいものを食べたり、学んだり。
かっこいいお金の使い方をしましょう。」
専業主婦歴9周年を目前に、私は心底そうなりたいと思った。

「お前は仕事を辞めて、家に入るべきだ。
早く子供を作って、子育てしながら、旦那を支えろ。」
結婚が決まり、お互いの両親が初顔合わせの時、
私の父は強い調子でそう言った。
義両親の前で涙が出そうになるのをこらえながら、小さく
「仕事は続けたい。」というのが精いっぱいだった。
けれども、結婚しても続けたいと思って入社した会社を、
長男の妊娠を機に、結局私は退社した。
暮らしを彩る雑貨に囲まれた仕事は好きな世界で、 
産休をとるか退社か、随分と迷った。
残業も多く、終電になることもしばしば。
そのような環境で子育てと両立できる自信がなかった。
私が仕事で帰りが遅くなったり、疲れて家のことに手が回らないと、
夫の私への不満も募った。
穏やかな関係で仲の良かった私達だったが、
結婚後はずいぶんとぶつかった。
産休を選択すれば、子供がいるなりの働き方がその会社でできたのかもしれない。
しかし当時の私は、そこまで考えられなかった。

想いを持っていなかったのだ。

その仕事を通してどう社会貢献し、どう自己実現していきたいのか、という想い。

周囲からの言葉や、労働環境などは言い訳で、
詰まる所私が退社を選んだのは、それが原因だった。

専業主婦になっての9年間で、私は3人の息子の母親になった。
母親業というものは、なんて味わい深い仕事だろうか。
隠し通せない自分自身の不甲斐なさにいやというほど気付かされるが、
それと同じくらい、しなやかに強くなっていく自分に出会うこともできる。
子育てを通して、社会や未来の地球のことにも広く関心が生まれた。
特に果てしなく興味が生まれてくるのは、毎日の食事作りから。
健康、栄養、伝統、環境、台所の知恵、家計のこと…。
日々キッチンにたちながら、そのような事々に想いを巡らせてきた。
やってみたいこと、学びたいことが次々と出てくる。
しかし、私の中で常に心のひっかかりになっているもの。
作るための材料費も、学ぶためのレッスン代や本代、友人とのランチ代も、
すべて夫が稼いできたお金からの支出。
どことなく後ろめたい気持ちになってしまうのはそこだった。
だからこそ、冒頭の利香さんの言葉がとても胸に刺さったのだ。

「想いをもって働き、好きなことをお仕事にして自分の収入を得たい。そして自分の人生を創っていきながら経済的に自立し、夫と対等にお互いを支えあえる関係でいたい。」
お家を持ち3人の子供の母になりたいという願いを実現させ、
次に私の中に自然と湧いてきたのはそんな夢だった。
子育てを通して、作り上げられた想いがある。
いつの時代も古びない知恵や考え方は、やはり未来を生きる子供たちに知っておいて欲しい。新しいものや便利なものがどんどん出てきて、情報があふれる世の中で、子供たちに「必要な時に本物を選びとれる価値観」を育てたい。
そして自分の中に軸を持ち、個性を活かし、主体的に自分の人生を創っていって欲しい。
子どもたちの体と心を育む毎日の食卓から、それを伝えていけると思う。
そんな私のその想いとFKの理念は重なった。
だから、FK料理教室認定講師になろうと思った。
あの時開けた扉から、ゆっくり、少しずつ、想いが私なりの形を作っていこうとしている。

ところで、9年前にあのように言っていた父だが、
今では、「これからは女性も男性も働くのが当たり前になる世の中だ。」と言っている。
時代はすごい速さで変わり、人々の考え方もそれに合わせて柔軟に変えられていく。
でも、ずっと変わらないものもある。
お母さんが家族を思いながら紡ぐ日々の暮らし。
台所からの音や香り。
その記憶は度々子供たちへのエールとなり、子から子へと繋がっていく。
作り手が心を入れたご飯を食べて育った子供たち。
彼らが作る未来は、きっと強くて、優しい。


FromKitchen料理教室認定講師 岩崎彩子