{ 台所からの手紙 }2013.06.09

Vol.028 ひいおばあちゃんの干し柿

つた子おばあちゃんの干し柿。
けっして斬新ではない、変わらない味。
保育園に行っておねえさんになった維吹と、また食べに行こう。維吹へ

今回、大阪に行ったのは、つた子おばあちゃんに曾孫のあなたたちの
元気な顔をみせるため。と、ハハたちも会っておきたかったから。
つた子おばあちゃんは大きな病気を何回もしていて、
でもそのたびにびっくりする生命力で元気になって、
もうすぐ80歳。
やっぱりときどき、調子がよくないこともあるし、
会えるときに会っておこうってことだったの。

おじいちゃんとおばあちゃんは、本屋さんだね。
若いころからずっと本屋さんで、そして今も、
ちょっと体調が悪くても朝から晩までいつもお店を開けている。

遊びに行くと、昔からいつもお寿司をとってくれるの。
お店をしていて忙しいから、凝ったものを作れないけど、
好きなごちそうをたくさんおあがり、って。

そしてじつはそう言いながら、そのあとにいつも
創作料理も出してきてくれる。
「テレビでやってた、ヨーグルトソースのサラダ」とか、
「雑誌でみた、かわいらしい煮物」とかね。
新しい味に保守的なおじいちゃんと暮らしていても、
孫や曾孫のために、
あときっとおばあちゃん自身も本当はお料理が好きで、
いろいろ挑戦してくれているんだ。
創作料理は斬新なのが多くて
おいしいときもあるし、そうでもないときもあるけど、
今回のぎんなんおにぎりは、ハハにはとってもおいしかった。

働くおかあさんになったハハに、おばあちゃんはすごく、
心から共感を持って、応援してくれてるのがわかるの。
夫婦だけでお店をやりながらの育児はほんとうに大変で、
預けるような場所もなかったから、
子どもたちを放っておくのが心苦しかったんだって。
だから維吹が保育園に入れること、心から喜んでくれたよ。
お友だちといっぱい遊んで、きっと成長するねって。
のびのび過ごせるのがとってもいいねって。

そんな話をしながら、
「維吹ちゃん大きくなったからもう食べられるかなあ」って
おばあちゃんが出してきたのは、お手製の干し柿。
きた!自慢の干し柿!
ついに維吹もこれを食べるときがきたんだねえ!

おばあちゃんちには柿の木があって、実がびっしり生る。
そしてそれは、ぜんぶ渋柿なんだって。
季節になると、毎年おばあちゃんは干し柿を作るの。
柿の木には実が1000個くらいできるから、
干し柿も、負けじと作られていく。
おじいちゃんが実をとって、
おばあちゃんがいっぱい皮を剥いて、
ひとつひとつ紐で吊るして、日に干したもの。

「みんなあんまり食べへん」っておばあちゃんは言うけど、
そんなに毎日たくさんは食べないってだけで、
種がすごく多いけど、自然な味で甘みもちょうど良くて
おいしいよ。 おじいちゃんも大好き。
ほかにもごちそうをたくさん出してくれるから、
ハハは、食べても、まあ、5個なんだけど。

それを維吹は、どれくらい食べたんだろう。
3個を1本の串にさしてあったから…、18個、か21個!?

維吹は干し柿をはじめて食べたけど、気に入ったんだね。
どんどん食べて、いくらでもあるのが嬉しそうで。
どんどん出すおばあちゃんも、とっても嬉しそうだったよ。
「あら!好きなんかねえ」
「うまいこと種をだせるねえ、じょうずじょうず」
「おいしいものは、わかるのよねえ」
「味覚がしっかりしてるんやわ」
「たくさん食べても安心よ、ほんまの無添加やから」
「おばあちゃんが作ってんよ」
実際、明らかに食べすぎなんだけど、
見てるこっちもにこにこしちゃうくらい嬉しそうな
おばあちゃんがいた。
しまいには「こんなちっちゃい体のどこに入るんやろ、
そろそろやめとき」だって!

止められるまで食べ続けた人は、きっと維吹だけだよ。

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