{ 食にまつわるお話 }2019.08.25

曲がったきゅうり|コラム:手島 奈緒

曲がったきゅうりがおいしいってほんとうですか?


家庭菜園でできた野菜たち。素人でもきゅうりはほぼまっすぐに育っています


スーパーに並んでいる野菜はピカピカのものばかりで、規格外品は捨てられてるからもったいない、なんて話をよく聞きます。規格外品を積極的に売りたい、なんて言う流通の話もよく聞きます。形は少し悪いけど味は同じ。ならば安いほうがいい、という感覚でしょうか。しかしこの話、野菜を作っている農家には思いのほか評判が悪いのです。

規格外品ばかりほしいと言われても・・・(農家の本音)


農家は最初から規格外品を作ろうと思って作っているわけではありません。思いがけない天災、例えば雹害などがあった場合はその限りではありませんが、通常の生産で生まれる規格外品はそれぞれに原因があり、ほとんどが廃棄処分にされています。なぜそうなのか。少し考えてみればわかります。

規格外品も正品も、出荷の際のダンボール代や送料、手間は同じだけかかります。同じだけ経費がかかるのに安く売りたい人はいないでしょう。ましてや、送料や資材代が高騰している昨今、農家の手取価格は下がっていますから、そんななか「規格外品を引き取るから安く出荷して」と注文されたらどうでしょう。イヤと言われるに決まっています。

「規格外品を安く出荷してほしい」という話は美談のようですが、農家にとっては「正品をたくさん買ってもらいたい」のが本音。消費者は、農家は規格外品を作ろうと思って作っているわけではないということを理解する必要があります。

「曲がりきゅうり」がおいしいという都市伝説


さて、このような規格外品神話のひとつに「曲がったきゅうりはおいしいのにまっすぐじゃないから売れない」という都市伝説があります。そのほかにも「まっすぐにするためにひとつひとつケースに入れている」というものもあります。これはほんとうなのでしょうか。


きゅうりが着果して少し生育したところ。先端に巻きひげがまきついているので、
大きくなってきたら果実はここでくぼみます。さらに曲がります。なので摘み取ってしまいます。


まず、昨今のきゅうりは正しく育てば普通にまっすぐになります。小さな果実のときに成長点に何かが当たる、たとえば、葉っぱやまきひげが先端に当たると、まっすぐ伸びることができずに曲がります。また、収穫終了間際にも曲がりきゅうりがよくできます。木が老化することで正しい生育ができなくなるのでしょう。

つまり「きゅうりはまっすぐ育つものだけど生理的な障害があると曲がる」のです。ましてやわざわざケースに入れるなど、一本あたりの単価が高ければできるかもしれませんが、現状のきゅうり価格ではそんな手間をかけるより摘み取ってしまったほうが楽なのです。

曲がりきゅうりはタネができすぎて果実の下半分が柔らかく、また曲がった部分の皮が硬かったりしますから、決しておいしくはありません。作物はどのようなものでも、正しい形で生育したものがおいしいものです。規格外品は、生理障害や肥料不足などが原因ですから、正しく生育したもの以上においしいなんてことはないのです。

ただ、現在の日本の出荷規格が厳しすぎるのは事実。これは流通の都合が大きな要因ですが、ピカピカの野菜を求める消費者の嗜好も理由のひとつ。今すぐにどうにかできる問題ではありませんが、スーパーで野菜を買うとき、見た目や大きさについて少し考えてみてください。

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コラム 手島 奈緒

株式会社大地(大地を守る会・現オイシックス・ラ・大地)で編集・広報・青果物仕入れなどを担当し、
おいしいものばかり食べていたせいかおいしいものが大好き。
2010年よりフリーランスライターとして農と食についての情報を発信中。

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