{ 食にまつわるお話 }2019.09.04
畑にはスターマークの入ったおいしそうなトマトがなっていて、わたしはよほど食べたそうにしてたのでしょう、「試食してもいいよ」と言われました。赤いトマトをもいで食べたところ、それはそれはおいしかったのですが、それを見ていた他のトマト農家が言いました。
「赤いのがおいしいのはあたりまえ。ほんとの味が知りたいなら青いトマトを食べなきゃ」
彼はなぜこんなことを言ったのでしょう。実は、お店に並んでいるトマトはまだ青いうちにもがれています。トマトは畑で赤くなるのではなく、スーパーのバックヤード、あるいは流通途中に赤くなっているのでした。
この写真はとあるJAの出荷規格表です。
まだ青いものから真っ赤なものまで10段階に分かれています。このJAでは、以前は3だったところ、最近になって「日持ちが悪い」という市場の要請で、1で収穫するように言われたとのことでした。
わたしの感覚では3くらいかなと思っていたので1と言われて非常に驚きましたが、日持ちするトマトを市場が要求するのなら、農家やJAは従うしかありません。この色で味を乗せるのは大変だろうなとそのJAに出荷している農家が気の毒になってしまいました。
前述のトマト農家が「青いトマトを食べなきゃ」と言ったのは、このような理由からでした。赤いトマトを食べてもその農家の真のトマトの味はわからない、と彼は言いたかったのです。
家庭菜園でわたしが収穫しているトマトの色合いは10です。畑から家まで自転車で帰り、冷蔵庫に即保存するため、移動中にトマトが傷むことはありません。
一般的な流通では、農家からJA、JAから市場、その後スーパーマーケットと段ボール箱のなかでトラックに揺られて移動しますから、熟度が上がった果肉の柔らかいトマトでは、あちこちに傷みが出て商品にならなくなってしまいます。
さらに、このようなトマトでは、消費者の手元に届く頃には熟度が上がりすぎて劣化している可能性もあります。だからこそ、トマトは真っ赤=完熟では出荷できないのです。
青い状態で収穫したトマトが赤くなるには常温でも数日かかります。冷蔵で保管されていれば、さらに日持ちしますから、在庫することも可能です。赤くておいしそうな色がつくまでスーパーのバックヤードで待機、なんて可能性もあります。
実は、トマトやナスなどの果菜類は総じて日持ちがいいため、きゅうりなどでも、市場価格が上がるまで倉庫で待機、などという出荷コントロールがされることがあります。冷蔵することで鮮度は保たれるので、きゅうりのように劣化が見た目に出やすい野菜でも、ある程度の期間の保管は問題ないということでしょう。
ということで、昨今の野菜は「いつ収穫されたか」が消費者にはほとんどわからないと言ってもいいでしょう。熟度も鮮度もいい状態の野菜を食べたいのなら、自分で作る、または、生産者から直接買うしかないということです。長期間保存できていつでも食べられるというメリットはありますが、なんだかちょっと違うのでは、という気がしてきます。
「できるだけ日持ちよく」という傾向は、トマトのみならず熟度が食味に関わる果物類で顕著に見られます。日本の野菜も果物も、早取り傾向はますます加速していて、本来の味が楽しめなくなっていると言ってもいいでしょう。ほんとうにおいしいものを食べたい人には厳しい世の中になっている、ということかもしれません。
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コラム 手島 奈緒
株式会社大地(大地を守る会・現オイシックス・ラ・大地)で編集・広報・青果物仕入れなどを担当し、
おいしいものばかり食べていたせいかおいしいものが大好き。
2010年よりフリーランスライターとして農と食についての情報を発信中。
WEB ほんものの食べものくらぶ https:/hontabe.com
BLOG ほんものの食べもの日記 https://hontabe.blog.fc2.com/
トマトはどこで赤くなっている?|コラム:手島 奈緒
以前とてもおいしいトマトをつくっている農家の畑でトマト農家の研修会がありました。畑にはスターマークの入ったおいしそうなトマトがなっていて、わたしはよほど食べたそうにしてたのでしょう、「試食してもいいよ」と言われました。赤いトマトをもいで食べたところ、それはそれはおいしかったのですが、それを見ていた他のトマト農家が言いました。
「赤いのがおいしいのはあたりまえ。ほんとの味が知りたいなら青いトマトを食べなきゃ」
彼はなぜこんなことを言ったのでしょう。実は、お店に並んでいるトマトはまだ青いうちにもがれています。トマトは畑で赤くなるのではなく、スーパーのバックヤード、あるいは流通途中に赤くなっているのでした。
赤いトマトが流通できない理由
この写真はとあるJAの出荷規格表です。
まだ青いものから真っ赤なものまで10段階に分かれています。このJAでは、以前は3だったところ、最近になって「日持ちが悪い」という市場の要請で、1で収穫するように言われたとのことでした。
わたしの感覚では3くらいかなと思っていたので1と言われて非常に驚きましたが、日持ちするトマトを市場が要求するのなら、農家やJAは従うしかありません。この色で味を乗せるのは大変だろうなとそのJAに出荷している農家が気の毒になってしまいました。
前述のトマト農家が「青いトマトを食べなきゃ」と言ったのは、このような理由からでした。赤いトマトを食べてもその農家の真のトマトの味はわからない、と彼は言いたかったのです。
家庭菜園でわたしが収穫しているトマトの色合いは10です。畑から家まで自転車で帰り、冷蔵庫に即保存するため、移動中にトマトが傷むことはありません。
一般的な流通では、農家からJA、JAから市場、その後スーパーマーケットと段ボール箱のなかでトラックに揺られて移動しますから、熟度が上がった果肉の柔らかいトマトでは、あちこちに傷みが出て商品にならなくなってしまいます。
さらに、このようなトマトでは、消費者の手元に届く頃には熟度が上がりすぎて劣化している可能性もあります。だからこそ、トマトは真っ赤=完熟では出荷できないのです。
トマトは意外と日持ちする野菜。とは言っても・・・
青い状態で収穫したトマトが赤くなるには常温でも数日かかります。冷蔵で保管されていれば、さらに日持ちしますから、在庫することも可能です。赤くておいしそうな色がつくまでスーパーのバックヤードで待機、なんて可能性もあります。
実は、トマトやナスなどの果菜類は総じて日持ちがいいため、きゅうりなどでも、市場価格が上がるまで倉庫で待機、などという出荷コントロールがされることがあります。冷蔵することで鮮度は保たれるので、きゅうりのように劣化が見た目に出やすい野菜でも、ある程度の期間の保管は問題ないということでしょう。
ということで、昨今の野菜は「いつ収穫されたか」が消費者にはほとんどわからないと言ってもいいでしょう。熟度も鮮度もいい状態の野菜を食べたいのなら、自分で作る、または、生産者から直接買うしかないということです。長期間保存できていつでも食べられるというメリットはありますが、なんだかちょっと違うのでは、という気がしてきます。
「できるだけ日持ちよく」という傾向は、トマトのみならず熟度が食味に関わる果物類で顕著に見られます。日本の野菜も果物も、早取り傾向はますます加速していて、本来の味が楽しめなくなっていると言ってもいいでしょう。ほんとうにおいしいものを食べたい人には厳しい世の中になっている、ということかもしれません。
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コラム 手島 奈緒
株式会社大地(大地を守る会・現オイシックス・ラ・大地)で編集・広報・青果物仕入れなどを担当し、
おいしいものばかり食べていたせいかおいしいものが大好き。
2010年よりフリーランスライターとして農と食についての情報を発信中。
WEB ほんものの食べものくらぶ https:/hontabe.com
BLOG ほんものの食べもの日記 https://hontabe.blog.fc2.com/