{ 食にまつわるお話 }2019.09.12

真っ赤なりんごをつくるために行われている作業の話

りんごの季節になりました。8月下旬からさんさ・つがるなどの早生りんごがスタートし、とき、秋映、紅玉、ジョナゴールドなどの中生種、11月にはふじ、シナノゴールドなどの晩生種まで、さまざまなりんごが楽しめます。昨今では黄色いりんご、緑色のりんごも店頭に並び、バリエーションはますます豊かになっています。が、やはりりんごは赤くなくっちゃ!! という方が多いのではないでしょうか。

実はこの赤いりんご、ただ木にならせておくだけでは真っ赤になってくれません。え? でもお店のりんごは真っ赤だよね? と思ったあなた、りんごが赤いのには理由があるのです。その理由は「りんごは真っ赤じゃないと売れないから」です。そのために生産者はひと手間もふた手間もかけてりんごを赤くしています。
この作業は「葉摘み」と「玉回し」と呼ばれています。

りんごのまわりの葉を取る「葉摘み」の影響は?


写真1 写真1

写真2 写真2

写真1のりんごを見てみましょう。りんごの果実に葉っぱが少しかかっています。この部分を取り除いたのが写真2です。葉っぱがおひさまを遮っていたので、取り除いたところは緑色をしています。葉っぱを摘み取らずに置いておくと、ここは赤くならないままで、赤と緑のまだらのりんごになってしまいます。規格外品で安く売ってあれば別ですが、こういうりんごは通常価格では売れません。なぜならみんなは赤いりんごが大好きだから、まだらな色づきのりんごはイヤなのです。

しかしよく考えてみましょう。葉っぱは光合成によって果実に栄養を送り込む大切な器官です。その葉っぱを取ってしまって大丈夫なのでしょうか。

通常、果樹類ではひとつの果実に葉っぱは40枚から70枚ほど必要だと言われます。葉が茂りすぎるのもよくありませんが、足りないのもよくありません。つまり、葉を摘みすぎると果実の味がのらない可能性があります。この「葉摘み」作業、最小限の葉摘みで済ませる農家もいれば、りんごのまわりの葉を全部摘み取る人もいます。そういうりんごはおいしいのかどうか。わたしには疑問に思えます。

りんごをくるりと何度も何度も回します、「玉回し」


写真2 写真3

葉摘みが終わったら、りんごにまんべんなくおひさまを当てる作業「玉回し」があります。写真2では、おひさまにあたっている側は赤くなっていますが、裏側はまだ色づいていません。ということで、りんごを注意深くくるりと回します。回した状態が写真3です。まだ白い状態ですが、りんごを回すことで裏側も赤くすることができます。

りんご農家は葉摘みをしながらりんごをくるりと回し、また少したったらくるりと回す作業を何度も行っています。この作業を8月頃から延々と続けるその手間はどうでしょう。気が遠くなりそうです。真っ赤なりんごは、農家の地道な作業の積み重ねでできているのです。

最近よく「葉とらずりんご」というりんごを見かけます。これは「葉摘みをあまりしてません=糖度が高いですよ」という付加価値商品のようなのですが、本来、消費者が「別にりんごは全面が真っ赤でなくてもいい」と思えば、「葉とらずりんご」は必要のない付加価値であることがわかります。

葉摘みをじゅうぶんに行った真っ赤なりんごと、葉をあまり摘み取らず光合成をじゅうぶんにさせたりんご、どちらがいいか。わたしたちは見た目と引き換えに何か大切なものをなくしているのではないでしょうか。

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コラム 手島 奈緒

株式会社大地(大地を守る会・現オイシックス・ラ・大地)で編集・広報・青果物仕入れなどを担当し、
おいしいものばかり食べていたせいかおいしいものが大好き。
2010年よりフリーランスライターとして農と食についての情報を発信中。

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