{ 食にまつわるお話 }2019.11.17

わたしたちは、世界一おいしいりんごを食べている?

しばらく前、なにかのインタビューで「日本のりんごはとてもおいしい。これを積極的に輸出し、世界の人に食べていただきたい」というようなことを、安倍総理が言っていました。なぜ日本のりんごはとてもおいしいのか。わたしたちがあたりまえに食べているりんごについて考えてみました。

日本の果物は嗜好品

グラニースミスという品種は、小玉で放任でわわわわわっとならせ、早取りするりんごです。最近は人気が出てきたので作っている人もいますが、10年ほど前はほとんど作られていませんでした。りんごは嗜好品だから加工用ではお金にならない、というのが理由です。糖度が高く、大玉で、しかも赤いものが好まれるのです。 
グラニースミスという品種は、小玉で放任でわわわわわっとならせ、早取りするりんごです。最近は人気が出てきたので作っている人もいますが、10年ほど前はほとんど作られていませんでした。りんごは嗜好品だから加工用ではお金にならない、というのが理由です。糖度が高く、大玉で、しかも赤いものが好まれるのです。

日本における果物の位置づけについて考えてみましょう。四季があり、水が豊富な国、日本。主食の米栽培が盛んなのは豊かな水のおかげです。昔から、アブラナ科などの食べられる野菜が自生していて、海や川では魚などのたんぱく質の供給が可能でした。また、山々では山菜や木の実などを採取し、食べることができました。

平地が少なく耕作が困難だったため、牛や馬などの大動物は基本的に使役に使われていました。これらの家畜は食用ではなく、家族として大切に扱われます。食べるよりも労働力として使った方が利益が大きかったことと、仏教の影響でしょう。現在でも、東北方面の方は、牛は家族だから食べられない、なんておっしゃる方がいます。

家畜だけでなく、野生動物も食べてはいましたが、毎日の食卓に乗ることはありません。人々は米(雑穀類)と野菜、魚・虫などを食べ、日々暮らしていました。この生活にないものが「甘いもの」です。

日常的に食べることができない「甘味」はごちそうでした。季節になると色づき、私を食べてと人々を誘惑する果物はまさに「特別な食べもの」。また、高温多湿の日本では、渋柿を干し柿として保存する以外に、果物はうまく保存できません。だからこそ、果物は貴重品、旬にしか食べられないもの、非日常的な食べものという位置づけになりました。このような理由から、日本における果物の地位は「嗜好品」なのです。

海外とは違う果物の作り方


さて、では海外ではどうでしょう。冷涼な気候で野菜類はほとんど栽培できず、できても食べず、肉を主食として生活してきた欧米の人々の場合、果物は野菜同様「ビタミンの供給元」、つまり「必須食品」という位置づけになります。このいい例がりんごです。

スヌーピーで有名なピーナツシリーズで、チャーリーブラウンのお弁当はいつも、ジャムとピーナツバターサンドイッチ、小さなりんごが一個でした。中学生の頃、この味気ないお弁当が気になってしょうがありませんでしたが、映画を見ていてもこのようなお弁当を持たされている小学生が多いので、実際にアメリカの小学生はこのようなお弁当を食べているのでしょう。

このお弁当からもわかるように、欧米のりんごは小玉で食後に丸かじりされることが多いのです。日本のように、手間をかけて真っ赤にして大きくして糖度を増して、なんてことはなく、りんごは初秋、早めに収穫され、翌年収穫されるまでのビタミン源として貯蔵され、食べ続ける必要があります。

そのため、欧米ではりんごの糖度は気にしません。日本のように蜜などが入っていたらおおごとです。蜜は厳密に言うと生理障害ですから、蜜が入ると貯蔵期間中に内部が褐変し腐ってしまいます。生理障害である蜜入りりんごをありがたがるのは、実は日本人だけなのです。

ということで、糖度が17度にもなるりんごを食べているわたしたちは、世界一おいしいりんごを食べてると言っても過言ではありません。以前アメリカから安いりんごが輸入され、すわ、牛肉の二の舞か! と、りんご農家が戦々恐々としたことがありましたが、そのりんごの人気はイマイチで、あっという間に売られなくなりました。

日本式に作ればおいしくなるのでしょうが、海外の作り方では日本人は満足できないのです。わたしたちにとっては甘くて大玉で蜜入りで糖度の高いりんごがあたりまえ。だからこそ、農家は手間暇をかけておいしいりんごを栽培しています。しかし海外では、小玉で長持ちして酸っぱいりんごがあたりまえ。だからこそ、安倍総理は「おいしいりんごを輸出」と言ったのでしょう。

伝聞情報ですが、イギリスにはりんごの品種は数種類しかないそうです。それに対して、日本のりんごは、酸の強いもの、甘いもの、花のような香りのもの、スパイスのような香りのものなど味のバリエーションが豊富で、色合いも、黄色、緑色、ピンクなどさまざまな色のりんごがあります。こんなにたくさんのりんごが楽しめるのは、おそらく日本だけ。そういう国に生まれたわたしたちは、実はとてもしあわせなのかもしれません。

11月に入り、店頭に「ふじ」が並び始めました。今が旬のふじ、たくさん食べたいですね。

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コラム 手島 奈緒

株式会社大地(大地を守る会・現オイシックス・ラ・大地)で編集・広報・青果物仕入れなどを担当し、
おいしいものばかり食べていたせいかおいしいものが大好き。
2010年よりフリーランスライターとして農と食についての情報を発信中。

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