{ 食にまつわるお話 }2019.11.30
みかんは世界で最も食べやすい柑橘類です。ナイフも使わずに手で皮がむけ、そのまま口に放り込めるため、海外でも人気で、カナダや香港、台湾などに輸出されています。「食べやすさ」は消費を伸ばすための大きな要因で、バナナの消費量が毎年上がっているのも「皮をむかなくてもいい」という食べやすさによるものです。みかんもとても食べやすい果物なのに、なぜか消費量は年々減少し続けています。
農水省の食料需給表によると、昭和50年の温州みかんの消費量は国民一人あたり14kgでした。10月から2月まで4ヶ月で食べるとしたらひと月で3.5kg。わたしが子どもの頃はみかんと言えば箱買いで、こたつの上に常時置いてある果物でしたから、それぐらいは食べていただろうと思います。しかし、平成30年(概算値)の一人あたり消費量はなんと5kg! どうしちゃったんでしょう?
日本人が食べる果物の量は年々減り続けており、増えているのはバナナのみです。世代別に見ると20代から50代の落ち込みがひどく、もしかしてこの世代は、果物を積極的に摂取する、という意識がないのかもしれません。子どもの頃、果物が大好きだった人でも、大人になるとその他の食べもの・嗜好品(たとえばお酒とか)を優先し、食べなくなることが多いそう。
そういった人たちに食べてもらうために必要な条件が、①食べやすい、②手頃な価格、③日持ちがよい果実 の3つです。新品種開発時にはこれらの条件を満たすことが必須になっています。みかんはこのうちの①②は満たしていますが、③はイマイチかもしれません。最近のみかんはすぐ腐るのです。
有機栽培のみかんや自然栽培のみかんは味が濃くておいしいものが多いのですが、とくに自然栽培は肥料分が少ないためか、腐りにくいという特徴があります。熊本県・池田農園さんの自然栽培のみかん。
みかんの消費量が減った理由のひとつに、箱買いをしなくなったことが挙げられるでしょう。昔は家のなかに玄関や勝手口の側など、凍えるほど寒いところがありました。しかし、最近の家には凍えるような寒い場所が存在しません。暖かく密閉性の高い住居の中では、冬というより晩秋の温度。そんな温度のなかではみかんは腐りやすいのです。
みかんが腐る理由にはいくつか理由があるのですが、最も大きいのが肥料の与えすぎです。少し専門的な話になりますが、果実を大きくし、たくさんならせるためにはチッソという成分が必要になります。適正な分量ならいいのですが、多く与えると病気にもかかりやすく、腐りやすくなります。チッソ分が残っていると食味も悪くなります。収量が上がり農家はうれしいのですが、味が悪く、貯蔵も効かなくなることから、消費者にとっては残念なみかんになってしまいます。
チッソが多いみかんの特徴に「浮き皮」という症状があります。これは年明けのみかんによく見られますが、皮と内部の果実の間にすき間があるもので、独特の味がします。おいしいみかんにはこの症状は出ていませんので、みかんを買う際には注意してみるといいでしょう。
消費者は総じて大玉で立派なみかんがおいしいと思いがちですが、おいしいみかんを食べたいならこぶりのものを選ぶのがおすすめです。どの果物でも小さめなものは味が濃く、あまり外れがありません。そしてみかんの場合大切なのは、その形です。横から見て平べったく、おへそがきちんと引っ込んでいるもの。これが糖度が高くおいしいみかんの形です。まず外れませんから試してみてくださいね。
そう言えば、昔働いていた会社で、取引のある農家からみかんが送られてくることがありました。おいしいみかんの見分け方を知っているスタッフは小ぶりで平たいみかんから食べていき、パートさんや仕入れ部署以外の社員は大ぶりで丸く、形のいいものを選んでいました。わたしたち仕入れの社員はおいしいみかんを食べたいがあまり、上記の選び方を誰にも言わず秘密にしていました。ここで懺悔いたします。ごめんなさい。
スーパーでみかんを買う際は、上記の条件を満たすみかんを買ってみてください。そしてこれからの季節、おいしく、たんまり食べてくださいね。
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わたしたちは「極早生」「早生」などと出荷時期によってみかんの種類を分けていますが、実はこの「極早生温州みかん」の中にもさまざまな品種があり、品種に寄って微妙に味が違います。みかんの品種は時期によってどんどん移り変わるけど、実際にその品種名で呼ばれることはあまりない果物なのです。これは桃などでも同じですが、消費者は品種名を知らなくてもおいしく食べてくれればいい、ということかもしれません。
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コラム 手島 奈緒
株式会社大地(大地を守る会・現オイシックス・ラ・大地)で編集・広報・青果物仕入れなどを担当し、
おいしいものばかり食べていたせいかおいしいものが大好き。
2010年よりフリーランスライターとして農と食についての情報を発信中。
WEB ほんものの食べものくらぶ https://hontabe.com
BLOG ほんものの食べもの日記 https://hontabe.blog.fc2.com/
おいしいみかんをたんまり食べよう!!
みかんの季節になりました。すっぱい極早生温州みかんから、早生温州(今ココ)、温州みかん、年明けには青島みかんと品種は移り変わっていきます。昨今では骨粗鬆症の予防高価があると言われる「アスタキサンチン」が豊富なことがわかったみかん。ビタミンCも豊富ですから、冬本番に備えて、たくさん食べたい果物のひとつです。そんなみかんについて書いてみました。減り続けるみかんの消費量
みかんは世界で最も食べやすい柑橘類です。ナイフも使わずに手で皮がむけ、そのまま口に放り込めるため、海外でも人気で、カナダや香港、台湾などに輸出されています。「食べやすさ」は消費を伸ばすための大きな要因で、バナナの消費量が毎年上がっているのも「皮をむかなくてもいい」という食べやすさによるものです。みかんもとても食べやすい果物なのに、なぜか消費量は年々減少し続けています。
農水省の食料需給表によると、昭和50年の温州みかんの消費量は国民一人あたり14kgでした。10月から2月まで4ヶ月で食べるとしたらひと月で3.5kg。わたしが子どもの頃はみかんと言えば箱買いで、こたつの上に常時置いてある果物でしたから、それぐらいは食べていただろうと思います。しかし、平成30年(概算値)の一人あたり消費量はなんと5kg! どうしちゃったんでしょう?
日本人が食べる果物の量は年々減り続けており、増えているのはバナナのみです。世代別に見ると20代から50代の落ち込みがひどく、もしかしてこの世代は、果物を積極的に摂取する、という意識がないのかもしれません。子どもの頃、果物が大好きだった人でも、大人になるとその他の食べもの・嗜好品(たとえばお酒とか)を優先し、食べなくなることが多いそう。
そういった人たちに食べてもらうために必要な条件が、①食べやすい、②手頃な価格、③日持ちがよい果実 の3つです。新品種開発時にはこれらの条件を満たすことが必須になっています。みかんはこのうちの①②は満たしていますが、③はイマイチかもしれません。最近のみかんはすぐ腐るのです。
みかんが腐りやすい理由
有機栽培のみかんや自然栽培のみかんは味が濃くておいしいものが多いのですが、とくに自然栽培は肥料分が少ないためか、腐りにくいという特徴があります。熊本県・池田農園さんの自然栽培のみかん。
みかんの消費量が減った理由のひとつに、箱買いをしなくなったことが挙げられるでしょう。昔は家のなかに玄関や勝手口の側など、凍えるほど寒いところがありました。しかし、最近の家には凍えるような寒い場所が存在しません。暖かく密閉性の高い住居の中では、冬というより晩秋の温度。そんな温度のなかではみかんは腐りやすいのです。
みかんが腐る理由にはいくつか理由があるのですが、最も大きいのが肥料の与えすぎです。少し専門的な話になりますが、果実を大きくし、たくさんならせるためにはチッソという成分が必要になります。適正な分量ならいいのですが、多く与えると病気にもかかりやすく、腐りやすくなります。チッソ分が残っていると食味も悪くなります。収量が上がり農家はうれしいのですが、味が悪く、貯蔵も効かなくなることから、消費者にとっては残念なみかんになってしまいます。
チッソが多いみかんの特徴に「浮き皮」という症状があります。これは年明けのみかんによく見られますが、皮と内部の果実の間にすき間があるもので、独特の味がします。おいしいみかんにはこの症状は出ていませんので、みかんを買う際には注意してみるといいでしょう。
おいしいみかんの見分け方
消費者は総じて大玉で立派なみかんがおいしいと思いがちですが、おいしいみかんを食べたいならこぶりのものを選ぶのがおすすめです。どの果物でも小さめなものは味が濃く、あまり外れがありません。そしてみかんの場合大切なのは、その形です。横から見て平べったく、おへそがきちんと引っ込んでいるもの。これが糖度が高くおいしいみかんの形です。まず外れませんから試してみてくださいね。
そう言えば、昔働いていた会社で、取引のある農家からみかんが送られてくることがありました。おいしいみかんの見分け方を知っているスタッフは小ぶりで平たいみかんから食べていき、パートさんや仕入れ部署以外の社員は大ぶりで丸く、形のいいものを選んでいました。わたしたち仕入れの社員はおいしいみかんを食べたいがあまり、上記の選び方を誰にも言わず秘密にしていました。ここで懺悔いたします。ごめんなさい。
スーパーでみかんを買う際は、上記の条件を満たすみかんを買ってみてください。そしてこれからの季節、おいしく、たんまり食べてくださいね。
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わたしたちは「極早生」「早生」などと出荷時期によってみかんの種類を分けていますが、実はこの「極早生温州みかん」の中にもさまざまな品種があり、品種に寄って微妙に味が違います。みかんの品種は時期によってどんどん移り変わるけど、実際にその品種名で呼ばれることはあまりない果物なのです。これは桃などでも同じですが、消費者は品種名を知らなくてもおいしく食べてくれればいい、ということかもしれません。
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コラム 手島 奈緒
株式会社大地(大地を守る会・現オイシックス・ラ・大地)で編集・広報・青果物仕入れなどを担当し、
おいしいものばかり食べていたせいかおいしいものが大好き。
2010年よりフリーランスライターとして農と食についての情報を発信中。
WEB ほんものの食べものくらぶ https://hontabe.com
BLOG ほんものの食べもの日記 https://hontabe.blog.fc2.com/