{ 食にまつわるお話 }2019.12.28
お寒くなりました。冬に食べたいおいしいもの、第二弾は「菜っ葉」です。
さて、菜っ葉と言えば、小松菜、ほうれん草、水菜、春菊、チンゲン菜あたりがメジャーでしょうか。レアなところでターサイという平べったいフリスビーのような菜っ葉もありますが、今回は主に小松菜・ほうれん草などのメジャーな菜っ葉について書きたいと思います。
菜っ葉類は周年栽培が可能な野菜です。関東では春と秋が栽培適期ですが、ハウスやトンネルで冬も栽培されています。関東でうまく栽培できない夏には、長野県などの高原や東北から出荷され、スーパーには菜っ葉が途切れることなく並んでいます。
夏にわざわざほうれん草を食べなくていいのに、などと思うのですが、料理番組では「一年中野菜がある」という前提で、夏にほうれん草、冬にトマトのレシピが紹介されています。料理家の方々にはもう「旬」はないのかも、なんて思ったりしますが、大きなお世話ですね。すみません。
さて、菜っ葉類は栽培期間が短く、春や秋などの適期であれば、種まきから収穫までに50日もかかりません。生育期間も長くなります。少し専門的になりますが、わたしたちが食べているトマト(果実)は、植物としては「生殖成長」という段階になり、菜っ葉類は生育途中の「栄養成長」という段階になります。ヒトで言うとまだ小学生くらい。花を咲かせ種を作るために、どんどん食べてどんどん大きくなっている状態です。わたしたちは植物的には未成熟なものを食べているのです。実はこれが、菜っ葉のおいしさに関係しています。
冬の小松菜やほうれん草は甘みが増してとてもおいしいもの。加熱調理すると大量に食べられるので、おひたしやナムルがオススメです。
専門的な話ばかりになって申し訳ないのですが、植物に必要な肥料分のうち、体を作るのはチッソ分です。菜っ葉類は成長段階にありますから、チッソ分が多ければ多いほど早く生育します。が、軟弱に育つため、虫や病気がつきやすくなる、というのはまた別の所でご説明します。
チッソ分を吸っても光合成で消費すれば何の問題もないのですが、土の中のチッソ分が多くて水分があると、菜っ葉はチッソ分をどんどん吸ってしまいます。このせいで、光合成をしても消費できないほどのチッソ分が体内に残ることがあります。これが一時期話題になっていた「硝酸態窒素」の残留です。
硝酸態窒素はお湯に溶け出すため、おひたしなどで食べていればあまり問題はありませんが、なんと「おいしさ」に問題があることがわかっています。硝酸態窒素の残留値が高いと、菜っ葉の糖度が低くなるのです。
以前、硝酸態窒素の残留地を調べていたときの経験では、おいしいと思える残留値は3000ppm以下でした。7000ppmにもなるとかなり味が悪くなります。雨が降った翌日にサンプルを取るなどの環境的な要因や、肥料、農家の技術などで残留値も変わるので一律に「こう」とは言えませんが、夏の菜っ葉類やハウス栽培では、露地栽培と比較しても硝酸態窒素の残留値が高めに出る傾向にあります。
が、しかし。どんな菜っ葉も味がよくなる季節があるのです。それが「冬」です。
ロゼット状に広がった真冬のほうれん草。円盤のようになっているので、野菜の袋に入れるのはとても大変です。てなこともあってハウス栽培が主になってるんでしょうかねえ。。。
冬の畑に行ってみましょう。12月や1月になると菜っ葉が凍っていることがあります。お昼頃にはゆっくりと溶けますが、溶けたり凍ったりを繰り返すとそのうち劣化してしまうため、野菜は自らの体内を糖分で満たし、寒さをやり過ごします。冬の野菜が甘いのは寒さを防ぐため。とくに露地の菜っ葉類は、見た目は悪くなりますが、とってもおいしくなるのです。
ハウス栽培の菜っ葉類はしゅっとしててとてもキレイで思わず買いたくなりますが、この時期しか売られていない「いかにも露地栽培」という菜っ葉を見つけたら、ぜひ買ってみてください。とは言え、最近のスーパーではなかなか見つからないかもしれません。「旬」が無くなるとともに、おいしい野菜も減っていくのかもしれませんねえ。
菜っ葉類の保存法
どの野菜でも同じですが、畑で生育しているときの姿で保存するのがコツです。菜っ葉は立てて冷蔵保存します。横にすると起き上がろうとして余計な体力を使い、糖分が減ってしまうので要注意。とくに春菊など根っこがついてないものは劣化も早いので気をつけましょう。
硝酸態窒素について知りたい方は
「食品安全委員会 ファクトシート」
https://www.fsc.go.jp/sonota/factsheets/f04_nitrate.pdf
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コラム 手島 奈緒
株式会社大地(大地を守る会・現オイシックス・ラ・大地)で編集・広報・青果物仕入れなどを担当し、
おいしいものばかり食べていたせいかおいしいものが大好き。
2010年よりフリーランスライターとして農と食についての情報を発信中。
WEB ほんものの食べものくらぶ https://hontabe.com
BLOG ほんものの食べもの日記 https://hontabe.blog.fc2.com/
冬本番! 今食べたいおいしいもの その2「菜っ葉」
菜っ葉類の生物としての最終段階一歩手前「菜の花」。このあと種を作るのですが、わたしたちはずいぶん手前の段階で菜っ葉を食べているのですね。お寒くなりました。冬に食べたいおいしいもの、第二弾は「菜っ葉」です。
さて、菜っ葉と言えば、小松菜、ほうれん草、水菜、春菊、チンゲン菜あたりがメジャーでしょうか。レアなところでターサイという平べったいフリスビーのような菜っ葉もありますが、今回は主に小松菜・ほうれん草などのメジャーな菜っ葉について書きたいと思います。
冬になると菜っ葉がおいしくなる理由
菜っ葉類は周年栽培が可能な野菜です。関東では春と秋が栽培適期ですが、ハウスやトンネルで冬も栽培されています。関東でうまく栽培できない夏には、長野県などの高原や東北から出荷され、スーパーには菜っ葉が途切れることなく並んでいます。
夏にわざわざほうれん草を食べなくていいのに、などと思うのですが、料理番組では「一年中野菜がある」という前提で、夏にほうれん草、冬にトマトのレシピが紹介されています。料理家の方々にはもう「旬」はないのかも、なんて思ったりしますが、大きなお世話ですね。すみません。
さて、菜っ葉類は栽培期間が短く、春や秋などの適期であれば、種まきから収穫までに50日もかかりません。生育期間も長くなります。少し専門的になりますが、わたしたちが食べているトマト(果実)は、植物としては「生殖成長」という段階になり、菜っ葉類は生育途中の「栄養成長」という段階になります。ヒトで言うとまだ小学生くらい。花を咲かせ種を作るために、どんどん食べてどんどん大きくなっている状態です。わたしたちは植物的には未成熟なものを食べているのです。実はこれが、菜っ葉のおいしさに関係しています。
成長に必要な肥料分が味を決める?
冬の小松菜やほうれん草は甘みが増してとてもおいしいもの。加熱調理すると大量に食べられるので、おひたしやナムルがオススメです。
専門的な話ばかりになって申し訳ないのですが、植物に必要な肥料分のうち、体を作るのはチッソ分です。菜っ葉類は成長段階にありますから、チッソ分が多ければ多いほど早く生育します。が、軟弱に育つため、虫や病気がつきやすくなる、というのはまた別の所でご説明します。
チッソ分を吸っても光合成で消費すれば何の問題もないのですが、土の中のチッソ分が多くて水分があると、菜っ葉はチッソ分をどんどん吸ってしまいます。このせいで、光合成をしても消費できないほどのチッソ分が体内に残ることがあります。これが一時期話題になっていた「硝酸態窒素」の残留です。
硝酸態窒素はお湯に溶け出すため、おひたしなどで食べていればあまり問題はありませんが、なんと「おいしさ」に問題があることがわかっています。硝酸態窒素の残留値が高いと、菜っ葉の糖度が低くなるのです。
夏と冬、露地とハウスでも味は違う
以前、硝酸態窒素の残留地を調べていたときの経験では、おいしいと思える残留値は3000ppm以下でした。7000ppmにもなるとかなり味が悪くなります。雨が降った翌日にサンプルを取るなどの環境的な要因や、肥料、農家の技術などで残留値も変わるので一律に「こう」とは言えませんが、夏の菜っ葉類やハウス栽培では、露地栽培と比較しても硝酸態窒素の残留値が高めに出る傾向にあります。
が、しかし。どんな菜っ葉も味がよくなる季節があるのです。それが「冬」です。
ロゼット状に広がった真冬のほうれん草。円盤のようになっているので、野菜の袋に入れるのはとても大変です。てなこともあってハウス栽培が主になってるんでしょうかねえ。。。
冬の畑に行ってみましょう。12月や1月になると菜っ葉が凍っていることがあります。お昼頃にはゆっくりと溶けますが、溶けたり凍ったりを繰り返すとそのうち劣化してしまうため、野菜は自らの体内を糖分で満たし、寒さをやり過ごします。冬の野菜が甘いのは寒さを防ぐため。とくに露地の菜っ葉類は、見た目は悪くなりますが、とってもおいしくなるのです。
ハウス栽培の菜っ葉類はしゅっとしててとてもキレイで思わず買いたくなりますが、この時期しか売られていない「いかにも露地栽培」という菜っ葉を見つけたら、ぜひ買ってみてください。とは言え、最近のスーパーではなかなか見つからないかもしれません。「旬」が無くなるとともに、おいしい野菜も減っていくのかもしれませんねえ。
菜っ葉類の保存法
どの野菜でも同じですが、畑で生育しているときの姿で保存するのがコツです。菜っ葉は立てて冷蔵保存します。横にすると起き上がろうとして余計な体力を使い、糖分が減ってしまうので要注意。とくに春菊など根っこがついてないものは劣化も早いので気をつけましょう。
硝酸態窒素について知りたい方は
「食品安全委員会 ファクトシート」
https://www.fsc.go.jp/sonota/factsheets/f04_nitrate.pdf
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コラム 手島 奈緒
株式会社大地(大地を守る会・現オイシックス・ラ・大地)で編集・広報・青果物仕入れなどを担当し、
おいしいものばかり食べていたせいかおいしいものが大好き。
2010年よりフリーランスライターとして農と食についての情報を発信中。
WEB ほんものの食べものくらぶ https://hontabe.com
BLOG ほんものの食べもの日記 https://hontabe.blog.fc2.com/