{ 食にまつわるお話 }2020.03.16

有機農産物とかオーガニック野菜の基本の「き」の字 その2



「危険」について考えてみよう


前回、有機農産物のメリットは確かさにあると書きました。確かさの根拠は、法律に基づいて第三者機関が毎年検査していること、履歴を追おうと思えば追えることにあります。つまり、有機農産物のメリットは客観性とトレーサビリティにあるのですが「だから安全なのよね」というのはまた別の話になります。

そもそも「安全」とはなんのことでしょう。新明解国語辞典第四版によると「身・(組織体)に危険を、物に損傷・損害をうける恐れがない状態(様子)」と書かれています。身に危険を及ぼすものとは、例えば、素人がさばいたフグや毒キノコは誰がどう見ても危険です。また、食品に含まれる化学物質、例えば残留農薬については、これ以上摂取したら健康被害が出ますよ、という基準値が食品衛生法で定められています。詳細は省きますが、この数値は動物実験で得られた数値などをもとに設定されています。

あからさまに危険なフグなどは別として、目に見えない化学物質については上記の通り、「身に損傷や損害を受けない状態」(危険ではない状態)と「身に損傷や損害を受ける状態」(危険な状態)の間に線引がされています。つまり、安全と危険は数値化が可能なのです。

有機農産物は安全なの?


スーパーで売っている商品は食品衛生法を遵守して製造され、流通されているものですから、基本的にはすべての商品が「安全」と言えます。なので、有機農産物は安全です。では「一般栽培のものも安全なの?」と聞かれれば、残留農薬基準値以内のものであるという前提で販売されているので「安全」ですと答えざるを得ません。

「でも少しでも残留農薬があれば安全ではないのでは?」という疑問が生まれますよね。実は有機農産物でも残留農薬が出ることがあります。

5月のりんご畑の農薬散布風景。手前は田んぼです。中山間地の畑では農薬を散布すれば隣の畑に飛散します。


日本では、一枚の畑の面積が数ヘクタールなどという米国と違って、10アールなんていう狭いところも多く、お隣の畑で農薬をまけば必ず飛びます。有機農産物の場合は、隣が一般栽培の際には緩衝地帯を設けること、と決まってはいますが、農薬は100メートルくらい平気で飛ぶため、自分でまかなくても、飛んできた農薬が残留することがあるのです。

現在は残留農薬の値ができるだけ低くなるよう、一般栽培でも最後に散布する農薬については考慮されてはいますが、ゼロではないことのほうが多いのです。ですから「残留農薬ゼロじゃないと安全じゃない!」と思う人にとっては「日本の農産物は安全ではない」ということになります。

「安全」と「安心」は違うもの


昨今、安全と安心が混同されることが多いのですが、安全と安心の違いを考えてみましょう。

「安全は数値化できるもの」「安心は心持ち」です。「安全」は「ここからは危険!」とゆるぎないのですが、100人いれば100通りあるのが「安心」です。「安全」なはずの「残留農薬基準値以内の農産物」を「危険だ」と思うのは、単に「安心できない」だけ。そこを忘れて危険だの安全だのと議論すると、全く噛み合わなくなります。

わたしは自分の「安心のものさし」を作ることをおすすめしています。有機農産物のメリットは、トレーサビリティ(誰がどのような畑で作ったかわかる)と客観性(そのことを第三者が検査し評価されている)です。であれば、有機農産物はそれ以外の農産物よりもはるかに「安心」と言えるでしょう。また、直売所でよく見る「無農薬野菜」の「客観性のなさ」=「安心できなさ」も実感できるのではないでしょうか。

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コラム 手島 奈緒

株式会社大地(大地を守る会・現オイシックス・ラ・大地)で編集・広報・青果物仕入れなどを担当し、
おいしいものばかり食べていたせいかおいしいものが大好き。
2010年よりフリーランスライターとして農と食についての情報を発信中。

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