{ 食にまつわるお話 }2020.04.01

残留農薬について知っておきたいいろいろなことについて その1

先日「残留農薬すごく怖い!!!」というご質問を受けました。よく聞いてみると「なんとなく怖い」というイメージで怖がっているような感じです。農業や農薬についていろいろな知識があると、農薬はまず「まく人が危険」であること。残留農薬は食品衛生法という法律で定められた基準値以内のものしか売られていないこと。などを考えると、別に怖くないと思えます。ので、今回は残留農薬について知っておきたいことを書いてみました。

過去の残留農薬基準値は意外とザルだった


詳細は省きますが、2002年に山形県で失効した農薬(無登録農薬)を使用した「無登録農薬事件」という農業界に激震が走った事件がありました。この事件後、それまではとくに回収義務などなかった失効農薬が回収されるという流れができたのですが、それよりも大きかったのが「残留農薬基準値」について、大幅な変更があったことでした。

まず基本的なことですが、農薬には「使える作物」(適用作物)と「使用方法」(使用量・希釈倍率)が決まっています。が、この事件以前は、適用のない農薬をまいても、とくに問題はありませんでした。例えば、トマトに適用があるけどミニトマトには適用がない農薬でも、トマトとミニトマト似てるからいいよね、的な感じです。

そして、全作物の農薬に、とくに残留農薬基準値が設定されていませんでした。上記の例でいうと、トマトには基準値があってもミニトマトにはない、みたいなことがあったのです。今では考えるとザルですよねって感じです。

無登録農薬事件後、農薬取締法も改正されましたが、残留農薬基準値にも変更がありました。「ポジティブリスト制度」が施行され、すべての作物に残留農薬基準値が定められたのが2005年。それ以降、非常に厳しいというか、今考えると当然ですよね、というルールのもと、農産物は出荷されています。

無登録農薬事件後法律が改正されることになって困ったのが「適用農薬のない作物を作っている産地」です。さくらんぼやすもも、パセリなどがそうで、これらの作物の主産地では暫定的な適用農薬を決定しなんとか出荷までこぎつけたのでした。

かなり厳しくなった残留農薬基準値と農薬取締法


実は農薬の登録にはルールがあり、動物実験を行って適正な数値を導き出さねばなりません。しかし当時、適用のない作物にその手続き(動物実験)を一から行うのは現実的ではありませんでした。したがって、残留農薬基準値のなかったものに、一律0.01ppmというデフォルトの数値が決定しました。

0.01ppmがどういった数値かと言うと、それぐらい飛散でフツーに出ますよね、という数値です。前回書いたように、日本では狭い面積でさまざまな作物が隣り合わせで栽培されています。つまり、お隣の畑でまいた農薬が飛んできて、自分の畑にかかることがある、というかあたりまえにかかります。これが大きな問題になりました。

たとえば、りんご畑の横にセロリ畑があり、りんごに農薬をまいた翌日にセロリを収穫して出荷したとします。りんごにまいた農薬がかなりの濃度で残留しているはずですが、2005年以前はセロリに適用のない農薬には残留農薬基準値がありませんから、とくに問題になりませんでした。

が、2005年以降は0.01ppmという非常に厳しい数値が設定されていますから、適用のない農薬が0.01ppm以上残留していれば出荷停止になります。丹精込めて作った作物が、自分がまいたわけでもないお隣の農薬で出荷停止になる可能性があるということです。恐ろしいではありませんか。

ということで、複数の作物がお隣同士で栽培されている産地でとくに、防除暦(農薬のカレンダー)に掲載される農薬に大きな変更が見られることになりました。
(その2につづく)

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コラム 手島 奈緒

株式会社大地(大地を守る会・現オイシックス・ラ・大地)で編集・広報・青果物仕入れなどを担当し、
おいしいものばかり食べていたせいかおいしいものが大好き。
2010年よりフリーランスライターとして農と食についての情報を発信中。

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