{ 食にまつわるお話 }2020.04.14

残留農薬について知っておきたいいろいろなことについて その2


前回に引き続き、残留農薬についてのお話です。


毒入り餃子事件後、しばらくして農薬の基準値設定の流れが変更されました。これにより、残留農薬基準値が厳しくなった農薬があります。ホームセンターでもよく売ってるオルトランはとても厳しい数値になりました。

さて、日本で販売されている農薬すべてに、まいていい作物(適用作物)とその使い方(希釈倍数・散布量)が決まっています。そして、それぞれの残留農薬基準値も定められています。
すべての農薬に使っていい作物(適用作物)が定められたため、適用ではない作物からその農薬が基準値以上に出てしまうと問題になります。きちんと使っていればそんなことはない気がしますが、実はけっこうそういった事例はあるのです。それは農薬の飛散です。

日本の国土はとても狭く、畑も小さな規模のものが多くなります。これが米国やオーストラリアであれば、農薬をどんなにまいても他人の畑に届くことはないのですが、日本では、お隣の畑との間はあぜ一本、というところが多く、さらに、違う作物が栽培されていることも多いのです。

同じような作物、果樹(ぶどう)の隣の畑で果樹(桃)が栽培されている場合などは、似たような農薬体系であることが多いのであまり問題になりません。が、果樹の横に野菜が栽培されている場合、意外と大変になります。

例えば、りんご畑の横にセロリ畑があり、りんごに農薬をまいた翌日セロリを収穫して出荷したとします。セロリにはりんごの農薬が飛散しています。果樹類に農薬を散布するスピードスプレイヤーという機械で農薬を散布した場合の飛散距離は、ある団体の調査では、まいた畑から150mくらいとのことでした。したがって、セロリの残留農薬はかなりの確率で出ます。

また、農薬にはそれぞれ使用時期が決まっています。収穫前だと残留しやすいため、収穫前の農薬は残留しにくいものを防除暦(農薬のカレンダー)で決めています。ただ、果樹類は時期によっては強い農薬を使います。その時期がちょうどセロリの収穫時期だったりすると、高濃度で出る確率が高いのです。

もしそれが基準値違反だったら、もちろん出荷停止です。丹精こめて作ったセロリが全部だめになった場合、セロリ農家の被害金額の補償を誰がするのか。そんな問題が発生するのです。

法改正後、どんな農薬が出ても問題ないよう、地域の防除暦(農薬のカレンダー)が大きく変わりました。残りやすい農薬を収穫間際には使わない、残留しにくいものを使う、品種が違っても同じ農薬にするなどの工夫がされ、今に至っています。

現在は、新薬が次々に登場し、以前のようによく効くけど残留しやすい強い農薬はどんどん失効しています。とは言え、基本的にはどの作物にも農薬は少量は残留していると考えたほうが無難でしょう。残留農薬はゼロではないと思っていれば、心配のタネはそれほどなくなるのではないでしょうか。

野菜や果物の残留農薬が気になったしょうがない方は、食べる前によく洗うことです。洗うことで、野菜についている一部の農薬のほか、土や菌を落とすことができます。洗わずに食べちゃうという猛者がいますが、衛生上よくないので、きちんと洗って食べましょう。


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コラム 手島 奈緒

株式会社大地(大地を守る会・現オイシックス・ラ・大地)で編集・広報・青果物仕入れなどを担当し、
おいしいものばかり食べていたせいかおいしいものが大好き。
2010年よりフリーランスライターとして農と食についての情報を発信中。

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