{ 食にまつわるお話 }2020.04.26

ミツバチのために農薬を規制する前に考えるべきこと その1

前回に引き続き、ミツバチと農薬について書いていきたいと思います。

ミツバチといえばネオニコチノイド系農薬

 

ミツバチといえば、セットのように語られるネオニコチノイド系農薬。SNSなどでも、かわいいミツバチの写真とネオニコチノイド系農薬の恐ろしい記事がシェアされていました。数年前から規制が叫ばれていますが、根拠は2013年に「蜂類崩壊症候群」の原因のひとつではないかとEUでネオニコチノイド系農薬の3成分が暫定的に規制されたことによるものです。

では、ネオニコチノイド系農薬(略称・ネオニコ)とはどんなものでしょう。この農薬は有機リン系農薬やカーバメート系農薬など毒性が高い農薬に代わるものとして開発された殺虫剤のひとつで、残効性が高く、使用方法によって散布回数を減らせるなどのメリットがあり、とくに難防除害虫として名高いアブラムシやカメムシ防除に利用されています。

開発したのは日本の農薬会社で、最初は「イミダクロプリド」という成分でした。農薬名は「モスピラン」「アドマイヤー」。ですが、そう言われてもピンと来ない方が多いと思います。農薬には農薬名(商品名)と成分名があり、この場合、モスピランが農薬名、イミダクロプリドが成分名、そしてよく似た構造を持つ大きな分類(系統)の名前がネオニコチノイド系です。ネオニコチノイド系農薬は、何種類かある農薬の系統名のひとつなのです。

例えば、ホームセンターでよく見るオルトラン(成分名・アセフェート)やスミチオン(成分名・MEP)は「有機リン系農薬」、ランネート(成分名・メソミル)は「カーバメート系」、蚊取り線香に含まれているペルメトリンは「ピレスロイド系農薬」と呼ばれます。しかしこの名前、一般的にはほとんど聞くことのない名前ではないでしょうか。

ネオニコチノイド系農薬、受難の開始

アブラムシの天敵、テントウムシ。生育初期の野菜にアブラムシがたかると、生育を阻害したり病気を媒介したりします。アブラムシを長期間寄せ付けないネオニコは、農家にとってはとても便利な農薬なのです。

ランネートもオルトランも毒性が高く、ミツバチどころかそこにいる虫を全て殺す農薬です。その毒性から、有機リン系農薬、カーバメート系農薬は、すでに使用禁止になっている国もあります。しかし、日本ではとくに規制はなく、メディアでもとくに取り上げられていません。なのになぜ「ネオニコ」だけが糾弾されるのか。おそらくこのキャッチーな名前が一般人に覚えやすかったからと推測しています。

以前「ネオニコチノイド系農薬」と名付けた方にお会いしたことがあるのですが、もともとは「クロロニコチル系」と呼ばれていたそうです。クロロニコチル系、覚えにくい。そのままにしていれば、こんなに大騒ぎにならなかったかも。

それはともかく、2013年にEUで規制されたのは(※)、イミダクロプリド、クロチアニジン、チアメトキサムの3成分で、その他のネオニコ系農薬は規制されていませんでした。また、対象作物と屋外使用(温室は使用可)という縛りもあったのですが、日本ではそこはあまり報道されませんでした。なぜでしょう。なんとなく、恣意的なものを感じます。

そしてなぜか、総称である「ネオニコチノイド系農薬=悪」とひとくくりにされたのです。成分名はわかりにくいし、ましてや農薬名など数が多すぎてさらにわかりにくいということもあるかもしれませんが、今でもその誤解は続いています。

さらに、日本とEU、米国とでは、ネオニコチノイド系農薬の使い方が大きく違っていることや、使い方によるミツバチへの影響についてもほとんど報道されませんでした。結果的に2013年以降、農業のことを知らない人の間で、「ミツバチを殺す農薬」としてネオニコチノイド系農薬はどんどん悪者になっていきます。

続きは次回に。

※2018年4月27日から、クロチアニジン、イミダクロプリド、チアメトキサムを主成分とする薬剤はすべての作物の屋外での使用を禁止されました。が、温室内などでは認められています。詳細は以下をご確認ください。
https://www.fsc.go.jp/fsciis/foodSafetyMaterial/show/syu04930240378
(食品安全委員会のWEBサイトより)

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コラム 手島 奈緒

株式会社大地(大地を守る会・現オイシックス・ラ・大地)で編集・広報・青果物仕入れなどを担当し、
おいしいものばかり食べていたせいかおいしいものが大好き。
2010年よりフリーランスライターとして農と食についての情報を発信中。

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