{ 食にまつわるお話 }2020.05.25

小さな畑の豊かな生態系

ヒラタアブの女の子。よく見ると、目の間に隙間があります。これがメス。ヒラタアブの幼虫はアブラムシの天敵なので、畑にはメスに来てもらって卵を生んで欲しい。

家庭菜園を楽しんでいます。野菜を買わずにできるだけ自分で作りたい、という利己的な欲のためですが、土作りをすることで、どれほどの病虫害が防げるか等々を確認してみたい好奇心もあります。借りているのは区民農園のため、継続的な土作りはできないし、区画も15平方メートルと小さな土地ですが、日々新しい発見があります。

例えば、4月。小松菜やかぶがとう立ちして菜の花が満開になっているわたしの畑に、どこからともなくミツバチが飛んできます。

ミツバチはおなかの縞模様の黄色部分が広いのがセイヨウミツバチ、黒っぽくて少しこぶりならニホンミツバチです。春先にわたしの畑に来るのはおなかが黄色っぽいのでセイヨウミツバチです。セイヨウミツバチが野生化しているのは、日本では沖縄だけ。ということは、このミツバチは誰かが飼っているのでしょう。

ミツバチの寿命は一ヶ月ほど。生まれてから約20日間は巣の中で子どもの世話や掃除、外勤バチから蜜を受け取り蜂蜜を作ったりしています。その後、蜜や花粉の採取しに外に飛び立つ外勤バチになります。外勤バチの寿命は10日ほど。巣の外で人知れず死んでいるのですが、その一匹がわたしの畑に来ていると思うと、愛おしくてなりません。そのせいで、菜の花の片付けがいつも遅れてしまいます。

菜の花にはハナアブもやって来ます。5月になると、葉っぱの陰でカメムシが交尾しています。わたしの畑で卵を産まないでほしいんですけど、などと思いつつ、ふと見上げると大きな羽音を立ててクマバチが飛んでいます。菜の花を片付け、夏野菜の畝を作ろうと畑にクワを入れると、オケラが大慌てで土にもぐったり、コガネムシの幼虫がコロコロと出てきたりします。


アブラムシの天敵アブラバチ。日本にはこのアブラバチ類が大量にいて、名前のないものも多いそう。日本の生物多様性はすばらしいのです。

わたしの畑に害虫が出るのは7月ごろから。カメムシやオオタバコガの幼虫がトマトやナスを食害し始めます。大量発生することはなくても、食害されているのを見つけるとほんとにガッカリします。が、虫の取り分虫の取り分と念仏のように唱えて自分を納得させています。

アシナガバチがヨトウムシで幼虫団子を作るのを見たり、小鳥が飛んできて何かを食べていたり、アブラムシに寄生するアブラバチのサナギを見つけたり、クモが徘徊していたりと、小さな畑の中で、人知れず小さなものたちの弱肉強食の世界が広がっています。おそらくこの空間で生態系バランスが取れているのでしょう。

野菜ももちろん大事なのですが、わたしにとって、これらの豊かな生態系を目撃できるのも楽しみのひとつ。彼らの営みを観察していると、農薬が良くないことが実感できます。アブラムシやオオタバコガの幼虫は死ぬでしょうが、クモやアブラバチも死んでしまう。その積み重ねが、いつか大きな生態系を壊しはしないだろうか、などと思ってしまうのです。

小さな畑の小さな命の輪を守ることが、より大きな生態系を守る第一歩になるのではないか。わたしの家庭菜園では、昆虫たちが食べたり食べられたりを繰り返していてほしい、わたしの菜園に飛んで来れば花粉も蜜も(虫も)食べられる、そんな場所になればと願っています。


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コラム 手島 奈緒

株式会社大地(大地を守る会・現オイシックス・ラ・大地)で編集・広報・青果物仕入れなどを担当し、
おいしいものばかり食べていたせいかおいしいものが大好き。
2010年よりフリーランスライターとして農と食についての情報を発信中。

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