{ 食にまつわるお話 }2020.07.23

「桃」と一言で言うけれど

6月末から店頭で売られ始める桃。これから8月末まで桃のシーズンになります。あまり知られていない桃の秘密をお知らせします。

桃の産地は関東では主に山梨県、福島県、西日本では岡山県が有名です。岡山県の桃はおおむね白いものが多く、関東で売られている桃は赤く色づいています。岡山県の桃が白いのは、栽培期間中ずっと桃に袋がかけられているから。これは西日本の人が白い桃を好むから、と聞いたことがありますが、よくわかりません。山梨県ではある程度の大きさになったら外側の袋を外しておひさまにあて、赤い色をつけます。そして、福島県ではなぜか袋をかけません。

以前山梨県の農家に、袋には、病害虫の予防という効果以外に、桃の個数の確認という意味があると聞いたことがあります。毎年この木には何個桃をならせていると数値管理ができるため、適正な数の把握に役立つのだそう。果樹類はどんなものも、ならせすぎるとおいしくなくなりますから、個数の管理が意外と重要そうですね。

どんな果実もそうですが、おいしさは「どれだけ樹上で熟したか」が大切です。スーパーの桃がなんかいまいちおいしくないのは、熟すずいぶん手前で収穫されていることが多いからなのですが、なぜそうなってしまうのか、桃の流通について考えてみましょう。

収穫した桃はおおまかに選別され、地域のJAに出荷されます。JAで「秀」とか「優」とかの規格に分けられた後は市場に移動します。そしてさらに小売店に移動です。農家と直接取引をしている小売店もありますが、ほとんどのスーパーや百貨店では、おおむねこのような流れになっています。ということで、出荷後、小売店に並ぶのに2日か3日程度かかっています。そして、トラックでの移動が最低2回あることです。

おひさまの下ですっかり赤くなった桃。赤くなっても色だけついていて熟していないこともあるので、桃の熟度管理はけっこうむずかしいのです。


 桃の熟度は、赤くなっていない部分の色を見ることで確認できます。なりもとはだいたい黄色いので、この色を見ます。写真のように、黄色みに透明感が出ていれば熟度が上がっている証拠。ここが緑色だったり透明感のない黄色だと熟していませんから、一度見てみてくださいね。

桃はとてもデリケートな作物。柔らかい肌に何かがあたると茶色く変色してしまいます。変色したりつぶれたりしてしまうと商品になりません。また、JAの選果場では、ひとつひとつ手で選果なんてめんどくさいことをしているところは少なく、自動選果機が使われています。機械の上をコロコロと桃が転がっている風景を思い浮かべてみましょう。熟度が上がって柔らかい桃に、このような作業が耐えられるはずはありません。

ではどうすればいいのか。熟していない状態で収穫すれば、あたったり傷んだりする可能性が低くなりますよね。ということで、桃は熟す前に収穫されているのです。ここでも、おいしさよりも効率が重要視されています。

このような経過を経てスーパーに並ぶ桃に、味を期待するのは酷かもしれません。なんとなく最近あまりおいしい桃に当たらないと思っているのなら、それは桃のせいではなく、流通の都合を優先してしまう今の農産物流通の必要悪、と言えるでしょう。

ということで、おいしい桃を食べたいのならどうすればいいのか。実はカンタンな方法があります。スーパーで売っているものではなく、産地直送の桃を買うことです。ネットで検索して、個人農家の直送の桃を見つけてみましょう。直送の桃がおいしい理由はただひとつ。直送や贈答品の桃は、JAや市場などから中間手数料を取られることがありません。売上はすべて自分のものですから、農家にとって最もおいしい稼ぎ頭なのです。

そのため、翌年も、翌々年も注文してもらえるよう、しっかりとしたおいしい桃を送ってくれます。一度このような桃を食べたらスーパーの桃は食べられなくなりますよ。産地直送の最高においしい桃で、本来の味を味わってみてください。

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コラム 手島 奈緒

株式会社大地(大地を守る会・現オイシックス・ラ・大地)で編集・広報・青果物仕入れなどを担当し、
おいしいものばかり食べていたせいかおいしいものが大好き。
2010年よりフリーランスライターとして農と食についての情報を発信中。

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