{ 食にまつわるお話 }2020.08.27

お肉の話 その2 牛肉にまつわる問題

1.メタボな牛のお肉問題


日本で飼育されている肉用牛は、主にトウモロコシやダイズなどの穀物飼料を食べています。これらの飼料は濃厚飼料とも呼ばれますが、それに対して牧草などの繊維質の飼料は粗飼料と呼ばれます。日本の肉牛の飼料の割合は、濃厚飼料が約9割、粗飼料は1割と言われています。なんとなく、放牧されてのんびり草をはんでいるイメージがある牛ですが、実はそうではないのです。

肉用牛は、おおむね牛舎で濃厚飼料を食べて育てられます。時折見かける野原で草を食べている牛は、子どもを生む母牛や育成中の子牛だけ。肥育期間に入ると、運動なんかされてしまうと飼料のムダになることから、ほぼ牛舎でじっとしています。そして国産牛は約19ヶ月、黒毛和牛は約28~32ヶ月でお肉になります。

草が主食の牛に濃厚飼料を食べさせるのは、早く肉をつけて大きくして出荷するという経済的な目的もありますが、おいしい肉を作るというとても大切な役割もあります。筋肉に脂肪が交雑するいわゆる霜降り肉は、粗飼料では作ることができないのです。

肉の味は主にトウモロコシで作られます。霜降り肉はわたしたちにはうれしくても、牛にとってみればメタボな状態です。粗飼料のために4つも胃があるのに、消化しやすい濃厚飼料を主食とするのは内臓の負担が大きいのか、国産牛の内臓廃棄率は約80%。決して健康的とは言えないメタボな牛のお肉を、わたしたちはおいしいと食べているのです。

成長促進目的の抗生物質を使わず、毎日自家製の配合飼料を作って与えている「尾崎牛」。自分の名前がブランドになるってすごいことですが、霜降りなのに胃にもたれない、とてもおいしい牛肉ですから、さもありなん。

2.成長促進目的の抗生物質問題

 

一般的には感染症などの治療に使用される抗生物質ですが、家畜には成長促進目的で飼料に抗生物質の添加が行われています。抗生物質を与えると増体率が高まり、早く大きくなってくれるという効果があります。牛だけでなく、鶏も豚も、また日本だけでなく、アメリカや中国でも、成長促進目的で家畜に抗生物質を与えているのです。

昨今、抗生物質の耐性菌が世界的な問題になっていて、EUでは成長促進目的での飼料添加はすでに禁止されました。2017年にWHOから「食用家畜における医療上重要な抗菌性物質(MIA)の使用に関するガイドライン」が出されましたが、アメリカは科学的根拠に乏しいと反発しています。日本では、内閣府の食品安全委員会で「人へのリスクなし」と評価した薬以外は、原則、家畜の成長促進に使えなくする方針を決定しています。

耐性菌は発現する前に早め早めの対策を打つ必要があるのですが、現在、世界的に見ても足並みが揃っているとは言えない状態です。その肉を食べたからと言ってわたしたちの体に影響があるわけではないのですが、大きく巡って「耐性菌」という取り返しのつかない問題になる可能性があるのです。

先日平均寿命が発表されていましたが、寿命が伸びた理由として、国民の栄養状態が良くなったことに加え、医療の進歩が挙げられます。感染症の蔓延が抑えられているのは、抗生物質という魔法の弾丸があるからこそ。これがどの感染症にも効かなくなったら、わたしたちは再び、単純な感染症で助からない時代に逆戻りしてしまうのです。そうなる前に、なにか対策を打っておく必要があるのではないでしょうか。

人に対する抗生物質の安易な処方も問題ですが、家畜の抗生物質も注視していく必要があります。

牛肉のお話 その3 に続きます。

【参考資料】
食品生産動物における医学的に重要な抗菌剤の使用に関するWHOガイドライン
https://www.who.int/foodsafety/publications/cia_guidelines/en/

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コラム 手島 奈緒

株式会社大地(大地を守る会・現オイシックス・ラ・大地)で編集・広報・青果物仕入れなどを担当し、
おいしいものばかり食べていたせいかおいしいものが大好き。
2010年よりフリーランスライターとして農と食についての情報を発信中。

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