{ 食にまつわるお話 }2020.09.04

お肉の話 その3 気になる肥育ホルモンの話

前回、穀物主体の濃厚飼料と抗生物質の飼料添加などの問題について書きました。引き続き、牛肉の問題について書いています。今回は、輸入牛肉についてです。

3.輸入牛肉(アメリカ・カナダ産)の肥育ホルモン剤問題


赤身が主体のオーストラリア産牛肉よりも、日本人好みの味が人気のアメリカ産牛肉。BSE(いわゆる狂牛病)でアメリカ産牛肉の輸入が禁止された際に、ある牛丼チェーン店ではオーストラリア産牛肉では同じ味が出せないと牛丼の提供をやめたというエピソードがありました。

アメリカ産牛肉は日本人にもすんなりと受け入れられる味が特徴です。その理由は、穀物主体の飼料によるものですが、アメリカ産牛肉には少し心配な問題があります。それが、肥育ホルモン剤です。肥育ホルモン剤は肉をやわらかくし、生育を早める目的で与えられ、ます。ちなみに、日本では成長促進目的での肥育ホルモン剤の使用は認められていません。また、EUでは肥育ホルモン剤を使用した牛肉の輸入は禁止しています。

肥育ホルモン剤は残留基準値が決まっていて、モニタリング検査により基準値を上回っている輸入牛肉は市場には出荷されていません。基準値以内であれば、ヒトには影響がないとされていますが、どうでしょう。わたしはなんとなくイヤな気がしています。

アメリカ・カナダ産牛肉のみならず、オーストラリア産牛肉にも肥育ホルモン剤が使用されている場合があります。心配な方は表示を見てみるといいでしょう。とは言え、表示しているスーパーは少数派。入荷した段階では肥育ホルモン剤使用・不使用の表示があるはずなので、表示できるはずなのですが、売上に影響するのか、あまり表示されていないのが現状です。わたしの知る限りでは、オーケーストアで表示されています。

国産牛よりも和牛で牛丼を作ったほうがおいしいと思うのですが、せっかくの和牛をなぜ牛丼に? とか思うとなかなか作れない貧乏性のわたしです。

これら牛肉にまつわるいろいろなことは、一般的にはあまり知られていません。ときおり週刊誌などでセンセーショナルに取り上げられることがありますが、危険とか、食べてはいけない、という文脈で語られることがほとんど。一週間もすれば忘れられてしまいます。

なぜ牛肉にそういう薬剤が必要なのか、草ではなく濃厚飼料を食べさせる必要があるのか、少しだけ考えてみてください。効率を重視した結果であったり、価格を抑えるため、または食味を向上させるため、などの目的もあるでしょう。牛や豚、鶏などの食用の家畜は、経済動物と呼ばれ、効率優先で飼育されているため、必要だと言われればそのとおりです。

しかし、わたしたちはその肉や卵、牛乳などの生産現場がどのように効率化されているのか知っておいたほうがいいのではないでしょうか。知ったうえで選択するのならそれはそれでよし、しかしそういう飼育方法でないものを選びたいのであれば、それも可能です。

輸入牛肉の肥育ホルモン剤が気になる人は、国産牛を選択できます。和牛なら、成長促進目的の抗生物質を与えていない生産者を探すこともできます。メタボではなく、放牧主体で赤身の健康的なお肉を作っている生産者もいれば、ほぼ牧草のみでお肉を作っている生産者もいます。

安いものに価値がある昨今、どうしても「効率重視」にならざるを得ない経済動物の飼育ですが、効率のみを追うのではなく、そこに「安心」や「健康」に配慮して家畜を育てようとする生産者がいます。わたしは、そういう人たちを応援していきたいと思っています。

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コラム 手島 奈緒

株式会社大地(大地を守る会・現オイシックス・ラ・大地)で編集・広報・青果物仕入れなどを担当し、
おいしいものばかり食べていたせいかおいしいものが大好き。
2010年よりフリーランスライターとして農と食についての情報を発信中。

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