{ 食にまつわるお話 }2020.10.07

「つがる」という名のりんごの話

ようやく夏が終わりましたねー。そして食欲の秋がやってきました。しばらく前から早起きができなくなっていましたから、体は一足先に秋の訪れを感じていたようです。これから一雨ごとに涼しく、というか寒くなっていくのでしょう。果物も、しゃくしゃくと水分の多い梨よりもりんごが食べたくなってくる、そんな季節です。

さて、この時期のりんごは「早生品種」の「つがる」「さんさ」などが出荷されています。「つがる」は早生りんごの代表選手。熟してくるとぽとんと落ちてしまう性質があるため、熟す前に落下防止剤(植物成長調整剤)を散布します。落下防止剤により果実が落っこちないのはいいのですが、最近、少し困ったことが起きています。

りんごやぶどうなど、赤や黒い色のつく果物がちゃんと色づくためには、昼夜の温度差が必要です。秋になり、夜が涼しくなってくるとりんごもぶどうも美しく色づき始めるのですが、最近はいついつまでも温度が高く、なかなか色づいてくれません。色づきと熟度がぴったり合えばいいのですが、なぜかつがるについては、内部が先に熟してしまうという現象が起きているのです。

これはもちろん昨今の天候不順=地球温暖化の影響もありますが、それに加え、落下防止剤の影響もあると考えられています。植物成長調整剤は、言ってみれば植物のホルモン剤のようなもの。もともとは外気温の変化と熟度がきちんと合っていたのに、昨今の温暖化でバランスが取れなくなってきたのかもしれませんね。

着色系のつがるはこんな具合にまっかな美しい色がつくのですが。。。。これは10年くらい前の写真なので、今ではむずかしいかもしれませんね。


ということで、スーパーに並んでいるつがるは、以前のような真っ赤なものではなくなりつつあります。年によっては緑色に赤いシマシマが入った、全然熟してないように見えるつがるが売っていることすらあります。食べてみるとすでによく言われる「ボケりんご」になってしまっていて「早めにお召し上がりください」とわざわざ書いてありました。売る側も理解しているのでしょう。

ぶどうの回でもお伝えしましたが、日本人は「走りのもの」が大好き。ですから、どんなものもシーズンを先取りしたものを好みます。早く出荷されればされるほど、いい値段で売れますから、早生品種がどんどん開発されるのも当然です。しかし、あまり知られていないことなのですが、というか、そう言うことを言うと嫌われますが、どんな作物も、早生品種は味的にはちょっと。。。というものが多いのです。

「つがる」は「シナノゴールド」や「ふじ」のように「べらぼうにおいしい!!!」という品種ではありませんが、作り手によってステキにおいしいものもあれば、そうでないものもあります。というか、もともとのポテンシャルがそれほど高くないりんごなので、おいしいつがるを作るのはむずかしいと言ったほうがいいのかもしれません。

「作りにくいりんご」になりつつある「つがる」。あとひとつきもそれば、中生種のりんごが出てきます。つがるでりんごの走りを楽しんだあと、本格的なりんごシーズンが始まるのかもしれません。

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コラム 手島 奈緒

株式会社大地(大地を守る会・現オイシックス・ラ・大地)で編集・広報・青果物仕入れなどを担当し、
おいしいものばかり食べていたせいかおいしいものが大好き。
2010年よりフリーランスライターとして農と食についての情報を発信中。

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