{ 食にまつわるお話 }2020.10.12

手作り干し柿のススメ

「人は干し柿が好きな人とそうではない人に分かれる」というのがわたしの持論でした。子どもの頃は干し柿をよく食べていましたが、あの甘さとねっとりした感触がイヤで、おとなになってからはほとんど食べなくなりました。きっともう一生嫌いなままに違いないと思っていたら、なんと去年あたりから干し柿が妙に食べたくなってきたのです。変だなー。干し柿など年寄りの食べ物だと思っていたのに。

ということで、人の味覚も嗜好も年齢を重ねていくと変わるのでしょう。わたしも年寄りになったのかも。ううううう。悲しい。

さて、柿という作物は、庭先にいくらでもなってるので、なんとなく無農薬で作れそうですが、ちゃんとした商品にするためにはきちんと農薬をまく必要があります。

庭先の柿が早々と葉を落としてしまうのを見て、みんな「秋だ」と思いますが、実は落葉病という病気のことが多く、その病気にかかると葉っぱがどんどん落ちてしまいます。葉っぱが落ちると光合成ができませんから、柿に負担がかかります。

また、早々と熟し柿になりぼとぼと落っこちてるのを見て「今年は熟すのが早いな」と思う人がいるのですが、それは害虫のせい。ヘタ虫と呼ばれるその虫の名は「カキノヘタムシガ」と言います。またカメムシが出ると、柿のヘタの周りに電話のダイヤルのような吸われたあとが残ります。そうなると商品になりません。

経営が成り立つよう美しい果実を収穫するためには農薬が必要なのです。調べてみたら和歌山県の防除暦で16剤だそう。意外と多いですね。とはいえ、おいしく見栄えのいい柿を作るためにはしょうがないということでしょう。

干し柿はなぜ甘くなる?

 


数年前に作った干し柿。年末までとっておいて料理に使おうと思っていたら、速攻で無くなりました。色の変化や渋の抜け方、もんだ柿ともまない柿の違いなど、さまざまな違いが楽しめます。お子様と一緒に作るとさらに楽しいかもしれません。


干し柿は渋柿を干すことで作ります。渋柿から渋が抜けるしくみは次のようなものです。
1.皮をむく
2.柿が呼吸できなくなる→ピルビン酸が生成→アセトアルデヒドに変化
3.アセトアルデヒドがタンニンと結びつき不溶化
4.渋を感じなくなる。

平核無柿などの渋柿の脱渋を炭酸ガスやアルコールで行うのも、これと同じしくみです。柿の呼吸を止めることで、渋(タンニン)を不溶化しているのです。

また、あまり知られていませんが、一般の干し柿は硫黄で燻蒸されています。硫黄とは、悪徳の町、ソドムとゴモラに神が降らせた雨(偏った知識ですみません)。まあなんというか、けっこう危険な物質です。

春先に殺菌目的で果樹類にまく石灰硫黄合剤が手についたらやけどをするし、石灰硫黄合剤をまくときには車の塗装がハゲるので、畑の横が道路だったりすると散布には注意しなくてはならないとか、硫黄の粉をうっかり吸い込むと気管支がやられたりとか、使用時には注意する必要があります。

干し柿の硫黄燻蒸はカビ防止の為と聞いていましたが、最近はカビ防止目的にはオゾン殺菌装置が使われているため、硫黄燻蒸はオレンジ色の発色のためだけに使われているのかもしれません。干し柿らしい色のままでいいのになと思うのですが、贈答品に使うには美しい色である必要があるのでしょう。

ということで、干し柿を手作りしてみてはいかがでしょう。作り方はとても簡単。皮をむいてヘタを切り取って干すだけです。雨さえ降らなければ、また、温度が高くなければ、誰にでも作れます。東京では小さな干し柿用の渋柿がおすすめ、お店で見つけたらぜひ買って、作ってみてください。

今年の冬は寒そうなので、うまくできる気がしています。年寄りになり、干し柿が好きになったわたしも、今年は作ろうと思っています。

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コラム 手島 奈緒

株式会社大地(大地を守る会・現オイシックス・ラ・大地)で編集・広報・青果物仕入れなどを担当し、
おいしいものばかり食べていたせいかおいしいものが大好き。
2010年よりフリーランスライターとして農と食についての情報を発信中。

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