{ 食にまつわるお話 }2020.11.08

おいしい牛乳と牛のお話

スーパーで見かける牛乳のなかに、時々「低温殺菌牛乳」と書いてあるものがあります。低温殺菌ってなんのこと? なんて思われたことはありませんか? 実は、日本で行われている牛乳の殺菌方法は大きく4種類に分かれています。全国乳業協同組合連合会のサイトによると以下の通りです。

1.低温長時間殺菌法(LTLT製法)63℃で30分加熱処理
2.高温短時間殺菌法(HTST製法)72℃以上で15秒以上加熱処理
3.超高温殺菌法(UHT)  120~130℃で2~3秒加熱
4.超高温滅菌殺菌法(LL) 135℃~150℃で1~4秒滅菌処理

低温殺菌牛乳と書いてない市販の牛乳は、おおむね3の超高温殺菌法で殺菌されています。LL牛乳はロングライフミルクとも呼ばれ、未開封であれば常温で90日保存できるというもの。震災時などに活躍しそうです。今回は、1と3についてお話します。

超高温殺菌法は日本で一般的に行われている殺菌方法で、牛乳を120度で2秒間加熱したもの。お鍋で牛乳を温めて沸騰すると、タンパク質の膜ができたりして、牛乳の味が少し落ちますよね。それと同じで、超高温殺菌法の牛乳も生乳本来の風味とはまったく違う味わいになってしまいます。

一般的に「コク」と感じられているねっとりとした絡みつくような風味は、実は120度で熱せられたときに生まれる「焦げ」であると言われています。牛乳嫌いな人はこの風味が苦手なことが多く、低温殺菌牛乳なら飲めるという人も多いのです。

低温殺菌法はもともとはワインの風味を損なわずに有害菌を死滅させるために生まれた殺菌方法です。62℃~65℃で30分間加熱処理をした牛乳は、香りや風味を損なうことなく生乳に近い味わいが楽しめるのが特徴です。

低温殺菌牛乳を飲んで初めて、牛乳はほんのりとあまくて香りが良く本来は滋味あふれるおいしい飲みものだと知る人が多いのですが、わたしもその一人でした。以前牛乳嫌いで牛乳など一生飲まなくてもかまわないと思っていたわたしですが、今では低温殺菌牛乳ならおいしく飲むことができます。


よくCMで乳牛が放牧されている風景が出てきますが、乳牛は基本的には放牧はされていません。放牧されている乳牛は、なかほら牧場などの限られた数牧場のみ。ほとんどの乳牛が牛舎に繋がれているのです。写真はなかほら牧場のジャージーちゃん子牛。


低温殺菌牛乳は、昔、日本全国の小さなミルクプラントでつくられていたそうです。冷蔵技術&交通網が発達していなかった時代、搾乳後集荷するまでに冷やせない&ミルクプラントまで遠いなどの理由から、低温殺菌法の牛乳はすぐ腐るなどのデメリットが大きく、大手牛乳メーカーが効率化・大規模化で超高温殺菌法を選択して飛躍的に生産能力が上がりました。それ以来、日本では超高温殺菌が主流です。

しかし物流・冷蔵状態が良くなった現在でもまだ超高温殺菌牛乳が主流なのはなぜでしょう。なぜわざわざ超高温で殺菌し、生乳の風味を殺しているのか。低温殺菌牛乳と超高温殺菌牛乳との価格の違いは50~100円くらいです。50円で滋味あふれるおいしい味が楽しめるのに。残念なことだと思います。

さて、牛乳とは、牛が出産した子牛のために出す乳を人間がいただく、というか横取りしているものでもあります。乳牛は、出産してしばらくの間乳を出し、少し休ませてまた出産する、というサイクルを繰り返しています。乳牛は、そのサイクルを3回から6回ほど繰り返したあと、乳量が落ちてくるので更新されます。つまり、4歳から7歳になると廃牛として更新されるのです。更新とは肉になるということでもあります。スーパーではそのお肉は国産牛として売られています。

グラスフェッドバターで有名な岩手県のなかほら牧場には、18歳のおばあさん牛がいました。もう乳も出ないしタダメシ食ってるだけだけと中洞さんは笑っていましたが、とても元気で、しかもしあわせそうでした。また長野県のキープ協会にも14歳くらいの乳牛がいました。このように、効率化とは無縁の酪農家もいるのですが、その「非効率分」は価格に反映されています。

現在の日本では、牛乳はどうかすると水よりも安い価格で売られていることがあります。子牛を育てるための乳が、水より安くていいのだろうか。そんな疑問が湧いてきます。
なぜこのような価格で生産できるのか。続きは次回に。


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コラム 手島 奈緒

株式会社大地(大地を守る会・現オイシックス・ラ・大地)で編集・広報・青果物仕入れなどを担当し、
おいしいものばかり食べていたせいかおいしいものが大好き。
2010年よりフリーランスライターとして農と食についての情報を発信中。

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