{ 食にまつわるお話 }2020.11.08

おいしい牛乳と牛のお話

前回に引き続き、牛乳のお話です。

現在の日本の畜産業は、徹底した効率化が図られています。お肉も、牛乳も、卵もすべて効率化の波に乗っていて、そこから離脱するのはかなりむずかしいと言ってもいいでしょう。なぜなら、現在の日本の食べ物の価値は、まず「安価であること」だからです。安価な製品を作るには、できるだけ経費を安くして製品を作り上げることが必要になります。畜産業もその例にもれず、経済動物として効率よく飼育されています。

さて、粗飼料から栄養素を取り出すために胃を4つも準備して、微生物に分解させタンパク質を摂取するという体を作り上げた牛の主食は「草」です。しかし、乳牛が放牧されることはまずありません。悲しいことに、現在の日本では放牧されて乳を出している牛はほんの少ししかいません。一般的な乳牛たちは、ときおり運動場に出してもらうことはあっても、ほぼ牛舎のなかで暮らしています。そこで穀物などの濃厚飼料を食べ、乳を出しているのです。

効率化の第一歩は、一頭あたりの牛から出せる乳の量を上げることです。農水省の飼料「Ⅰ 乳牛」によると、経産牛一頭当たり年間乳量は昭和30年代では4000kg程度でした。わたしが小学校低学年のころ、鳥取市内の河川敷には牛が放牧されていました。小さな牧場があったのでしょう。昭和30年代は牛の飼料もまだ草(粗飼料)が主体です。

米国から安価な穀物飼料が輸入され、牛たちは粗飼料だけでなく、穀物飼料を食べるようになりました。穀物飼料は粗飼料よりも栄養が豊富ですから、乳量が増え、牛は早く生育します。肉牛では、粗飼料と濃厚飼料の割合が2:8程度と言われていますが、乳牛は5:5くらいと言われています。その努力の甲斐あって、平成16年には乳量は7700kgに、その後も、J-milkの統計によると、平成30年には8683kgと、年を追うごとに乳量は増え続けています。

さらに、牧場の大規模化や機械化などのハード面についても徹底した効率化が図られた結果が、スーパーで売られている1リットル200~300円の牛乳になるのです。


日本型の酪農「山地酪農」を実践しているなかほら牧場。大きな樹を切り倒し、その後牛を放すことで、牛が草を食べ牧場を作ってくれるという蹄耕法を実践しています。人間が入れない急傾斜でもヤブの中でも、牛たちはどんどん入って行きます。ずっと牛舎で暮らしている牛はこの急傾斜の斜面を上がる力がなくなってしまうのだそう。悲しい話ですね。


さて、では、濃厚飼料を主体にせず、牧場で完全放牧、あるいは、夜だけ牛舎に入れるなどの放牧を行っているなかほら牧場やキープ協会などの牛の乳量はどれぐらいなのでしょう。ジャージー牛はホルスタイン種に比べて小型で乳量が少ない品種なので単純に比較してはいけませんが、だいたい2000kgから4000kgの間くらいだそうです。一般の牛たちの乳量(8000kg)の半分以下ですから、牛乳の価格も2倍から2.5倍以上になります。

例えば、なかほら牧場の牛乳は、720 mlで1,188円。キープ協会は1リットル702円です。どちらも低温殺菌牛乳で、生乳の風味が残っていて滋味豊かな味わいです。風呂上がりに一気飲みするというより、少しずつ味わいながら飲みたいような牛乳です。わたしは木次乳業のブラウンスイスの牛乳が好きなのですが、こちらも、甘みと香りのあるステキな味がします。

なかほら牧場の牛乳は、松屋銀座のショップで飲むことができます。キープ協会の牛乳は成城石井や明治屋などでも売っています。木次乳業のブラウンスイスの牛乳も、明治屋で買えます。ぜひ一度、これらの牛乳を飲んでみてください。そして、スーパーの牛乳と飲み比べてみてください。そして、牛乳パックのむこうにいる牛たちについても、少し思いを巡らせていただければと思います。

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コラム 手島 奈緒

株式会社大地(大地を守る会・現オイシックス・ラ・大地)で編集・広報・青果物仕入れなどを担当し、
おいしいものばかり食べていたせいかおいしいものが大好き。
2010年よりフリーランスライターとして農と食についての情報を発信中。

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