{ 食にまつわるお話 }2020.11.23

「野菜の大きさが揃っているのはF1だから~」ってほんとですか?

10月30日のNHKの人気番組「チコちゃんに叱られる」で「売られている野菜の大きさが同じなのはなぜ?」という質問がありました。わたしはその夜、ビールを飲みつつ、青パパイヤのレシピを検索しつつ、横目でチコちゃんを見ていたのですが、チコちゃんが「F1だから~」と言うのを聞いて驚愕しました。思わず速攻でFacebookにそのことをUPしたほどです。

おそらく、チコちゃんを見ていた日本中の農家・流通関係者も同じように驚愕し、ツッコミを入れたに違いありません。

「野菜の大きさがそろってるのは、出荷規格があるから~」

一般的に野菜や果物などの青果物は、大きさだけでなく、色合いや形状に至るまで「出荷規格」が決められています。例えば、小松菜だと、長さは25~30センチくらい、FG袋という菜っ葉を入れる袋からはみ出してなくて、虫食いとか黄変のないもの。みたいな感じです。菜っ葉類は生育が早いため、少し大きくなっても問題ないのですが、45センチもある小松菜は見たことがないので、30センチくらいが上限のようです。

大根は一本1.2kg~1.5kg、葉っぱはカット、そして洗ってあります(「葉切りの洗い」と言います)。まっすぐに生育していないもの、先が二股になっていたり、へんてこな形をしていたら出荷できません。あったかくて生育がどんどん進み、2kgとか3kgとかのバカでかい大根になることもしょっちゅうあるのですが、そういうものは出荷できず、畑にうなっちゃったりします。



栄養価が高いから大根葉がついてるといいのにと思う方もいらっしゃると思います。しかし、決まった大きさのダンボール箱に決まった数の大根を入れて運ばなくては送料が抑えられませんから、場所を取る葉っぱは邪魔ものです。そしてご家庭の台所を泥で汚さないよう洗います。「泥問題」は人参やネギなどでも同じです。これは、台所が泥で汚れるのを嫌う消費者のための出荷規格ということかもしれません。

大きさだけでなく色の規格がある野菜もあります。例えばトマトはスーパーで長持ちするよう、店頭に並んだときにちょうどいい色になっているよう、先端が少しだけ赤くなった状態で出荷されますから、それよりも少し早い状態で収穫する必要があります。緑色のトマトは残念ながらあまり糖度が乗っているとは言えないでしょう。しかしそもそも出荷規格は、運びやすさ、売りやすさ、消費者の好みで決まるものなので、おいしさは二の次なのかもしれません。

「チコちゃん」で紹介されていた「F1だから」には確かに「いい性質が揃う野菜ができる」といった点では正しいのですが、F1の大根でも生育が進めば3kgになるし、小松菜も45センチになります。バカでかい野菜やぐずぐずに熟したトマト、二股の大根が店頭に並んでいないのは、出荷規格があるからこそ。大きさや形状がそろっているのは、産地で出荷規格をきちんと守っているからなのです。

「チコちゃんに叱られる」は科学的根拠のようなものを提示しつつ、おもしろいところに焦点を当て、わかりやすくするために、ときには大事なところをはしょっちゃったりする知的バラエティ番組ということでしょう。とてもおもしろく、見ていて楽しいのですが、マジメに受け止めてはいけません。

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コラム 手島 奈緒

株式会社大地(大地を守る会・現オイシックス・ラ・大地)で編集・広報・青果物仕入れなどを担当し、
おいしいものばかり食べていたせいかおいしいものが大好き。
2010年よりフリーランスライターとして農と食についての情報を発信中。

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