{ 食にまつわるお話 }2020.11.23

蜜入りりんごがおいしい理由

11月のりんごと言えば「ふじ」ですね。りんごの世界にもニューフェイスが次々に登場していますが、やはりふじにかなう味わいと、日持ちのするりんごはなかなか登場してくれません。そういう意味ではふじは日本一のりんごと言えるでしょう。

11月末から贈答用に使われるふじでは、蜜入りりんごが特に喜ばれます。でもちょっと待って。蜜ってなんなのでしょう? 以前お友達が「どうやって見るをりんごの中に入れるんだろう。注射器でも使っているのかな?」なんて言っていましたが、この蜜、どうやって入っているのか、不思議に思ったことはありませんか? 蜜入りりんごは甘い、と言われますが、実は蜜部分は全然甘くないのです。ではなぜ「蜜入り」がありがたがられるのか。そのヒミツは収穫時期にあります。

りんごの樹は、葉っぱで光合成して作り出したデンプンを、次世代の種が入っている果実にどんどん溜め込んでいます。デンプンはソルビトールという形で果実に到着し、その後果糖などに形を変えます。が、この時急激に冷え込むと、ソルビトールがそのままの形で果肉に残ります。これが「蜜」になるのです。キーワードは「急激に冷え込む」です。

贈答用りんごの主産地、長野県で「急激に冷え込む」のはだいたい11月の下旬くらい。12月まで木につけておくとりんごが凍ってしまうので、11月下旬がギリギリの収穫期間になります。ということで、「蜜入りりんご」は霜が降りるそのギリギリまで木についていた=完熟である証拠とも言えます。

「完熟りんごはおいしい」。つまり、長期間(霜が降りるまでも)樹上で熟した結果、蜜が入るので、蜜入りりんごに価値があるということでしょう。しかし、それがいつの間にか蜜自体に価値があるように誤解をされてしまったのです。蜜が入っても入っていなくても、熟度の高いりんごはおいしいもの。蜜は単に急激に冷え込んだかそうでなかったかの違いでしかないのです。

さて、この蜜。2月に入ると果肉のなかで茶色く変色してしまいます。俗に「あんこ症」などと言われる生理障害ですが、こうなると売り物になりません。20年ほど前にはあんこはそれほど問題ではありませんでしたが、温暖化のせいか、最近では蜜入りりんごを年明けまで貯蔵しておくと障害が出るようになりました。年内は喜ばれる蜜も、年が明けると嫌がられるのですから、人とは勝手なものですね。

ということで、蜜入りりんごがおいしく楽しめるのは、年内。今のうちに樹上でよく熟したおいしいりんごを食べておきましょう。

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コラム 手島 奈緒

株式会社大地(大地を守る会・現オイシックス・ラ・大地)で編集・広報・青果物仕入れなどを担当し、
おいしいものばかり食べていたせいかおいしいものが大好き。
2010年よりフリーランスライターとして農と食についての情報を発信中。

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