{ 食にまつわるお話 }2020.11.23

りんごの旬のお話


昨今アップルパイなどで人気のグラニースミス。酸っぱくてレモンいらずでパイやジャムに加工できます。そのまま食べてもおいしいりんごです。


りんごって、一年中店頭に並んでいますよね。でも、りんごの旬は秋から冬にかけてなのに、なぜ? なんて思ったことはありませんか? 

9月頃から出荷される、つがる、さんさに始まり、10月からは秋映、ジョナゴールド、紅玉と続き、そして、王林、シナノゴールド、さらにフィナーレを飾るふじ。りんごはさまざまな品種が次々にバトンタッチして、初秋から冬にかけて登場しています。しかし、収穫が終わってからも、春から夏にかけてりんごは店頭に並びます。これらのりんご、実は冷蔵庫で保存していた貯蔵用のりんごです。品種はまったく変わりないのですが、それぞれの品種の収穫時期を早くすることで、貯蔵を可能にしているのです。

例えば、ふじの収穫はまさに今が最盛期ですが、春先に店頭に並ぶふじは、10月ごろに収穫されています。貯蔵用りんごはどの品種もその品種のちょうどいい収穫時期よりも少し早めに収穫します。また、熟度が上がらないよう袋をかけて栽培され、収穫間際に袋を取っておひさまに当てて着色します。きれいなピンク色がついているものが多いのですが、これは袋かけ栽培独特の色合い。袋かけりんごの着色は言ってみれば「日焼け」なのです。

さて、りんごもすべての野菜と同じく、収穫後も生きていて呼吸をしています。呼吸をすることにより劣化が早まり、やわらかくなって最後には腐ってしまうため、長期間の貯蔵をするためには、呼吸を抑えることが必要になります。ということで、収穫後は温度・湿度、酸素のコントロールをして、りんごの呼吸作用を抑えます。最近では貯蔵技術がどんどん向上し、長期間の貯蔵ができるようになりました。季節を問わずりんごを食べられるのですから、ありがたいことですね。

貯蔵用のりんごは、まだ未熟な状態で収穫されています。したがって、収穫時には食べても粉っぽくておいしくはありません。冷蔵庫で貯蔵している間にでんぷんが糖化し、おいしく食べられるようになります。貯蔵りんごは旬の時期に収穫されるりんごと違って柔らかくなりやすく、食味も微妙に違うのですが、あまり気づかずに食べている人が多いのではないでしょうか。

貯蔵できるりんごにも向き不向きがあり、例えばふじやジョナゴールドは貯蔵に向いているのですが、つがるなどは向いていません。最近ではシナノゴールドが貯蔵に向いているということで、脚光を浴びています。いずれにせよ、冷蔵庫から出てきたばかりの箱入り娘ですから、夏の暑さのなかでは抑えられていた呼吸がどんどん進み、どんどんやわらかくなりますから、季節外れのりんごは購入後には早めに食べたほうがいいでしょう。

ともあれ、それら貯蔵りんごの出番はまだ半年先。今は旬のりんごの味を思う存分楽しんでくださいね。

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コラム 手島 奈緒

株式会社大地(大地を守る会・現オイシックス・ラ・大地)で編集・広報・青果物仕入れなどを担当し、
おいしいものばかり食べていたせいかおいしいものが大好き。
2010年よりフリーランスライターとして農と食についての情報を発信中。

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