のらぼう菜をザルにおいたもの

{ 食にまつわるお話 }2021.03.24

生命力あふれるこの時期だけの旬の野菜、菜の花

のらぼう菜をザルにおいたもの
のらぼう菜。花というより茎を食べる野菜です。


アスパラガスや春キャベツなど、野菜売り場が春めいてきました。近くの農産物直売所には、この時期だけの菜の花がたくさん並んでいます。小松菜やべか菜、チンゲンサイなど、家庭菜園のアブラナ科の野菜もトウ立ちの真っ最中。つぼみのうちに収穫してゆでて食べるのはとてもおいしいもの。直売所では、茎立菜、小松菜の菜花、のらぼう菜などさまざまな菜花を見かけます。

日本はアブラナ科野菜の種類が多く、地域によって独自のアブラナ科野菜が栽培されています。在来品種がスーパーで売られることはめったにないので、知られていない野菜もたくさんありそうです。おなじみのアブラナ科野菜、例えば小松菜は江戸時代、白菜は明治時代、チンゲンサイは1970年代に中国から日本に渡ってきた新参者。昔から食べられているようですが意外や意外、そうでもないのです。

そんななか、ちょうど今、春先にだけ、農産物直売所やスーパーの「地元野菜売り場」にちらほらと「むかし菜の花」がお目見えします。たとえば茎立菜。冬の間、雪の下で地面にへばりついてじっと寒さに耐えているのですが、雪解けとともに一気にトウ立ちし「茎立菜」とい名の野菜になります。子孫(種)を残そうという植物の生命力。スゴすぎます。

その生命力は「のらぼう菜」というやはりトウ立ちした菜花に感じることができます。一節によるとこの野菜「野良にぼうぼう生えているから」のらぼう菜と呼ばれると聞いたことがあります。多摩川の河川敷に咲き乱れている菜の花を見るたび「野良にぼうぼう生えているからこれはのらぼう菜ではないだろうか」といつも思います。満開になって初めて気づくその存在。いつか食べごろの季節に食べてみようと思っています。

のらぼう菜や茎立菜、同じ菜の花のようですが姿形は少しずつ違い、味わいも違います。どの野菜も、その地域で長年栽培されてきて、地域に即した品種になっているのかもしれません。冬の間寒さに耐え、じっと地面にへばりついて春を待ち、一気に種をつけようと起き上がるその生命力。この時期だけ食べられる旬の力です。

ちんまりとお行儀よく紙に包まれている菜の花もほろ苦くておいしいのですが、直売所でしか出会えない、ワイルドな姿の茎立菜やのらぼう菜、見つけたらぜひ試してみてくださいね。春の息吹を体内に取り入れ、新しいシーズンを迎えましょう。

(手島奈緒)