{ 食にまつわるお話 }2021.05.11
「卵」といえば物価の優等生と言われ続けて数十年。卵と牛乳だけは何十年経ってもそれほど価格上昇がないのが不思議です。安価で販売できる理由は、どちらも徹底した効率化と合理化にあるのですが、消費者にはあまり知られていません。卵のおいしさは、そのあたりと関係がありそうです。
昨年の冬から春にかけて、鳥インフルエンザが猛威を奮っていました。どれほどの鶏が殺処分されたか、はっきりとした数字はまだ上がってきていませんが、肉用の鶏、採卵用の鶏、どちらにも被害があったようです。鳥インフルのニュースが報じられると、空から鶏舎を移した映像がよく出てきます。なんだか大きな工場みたいな鶏舎の場合と、開放されている鶏舎との2通りがあります。工場みたいな鶏舎は「ウインドウレス鶏舎」と呼ばれる鶏舎で、採卵用の鶏はその鶏舎で育てられています。
ウインドウレス鶏舎とはその名の通り窓がなく、人工的な光の中で環境が完璧にコントロールされています。ケージに飼われている鶏たちは、ひたすら飼料をついばみ卵を産みます。採卵率が落ちてくると、1週間ほど絶食させます。そうすると、鶏の羽が生え変わり、卵の品質がよくなるのです。これは「強制換羽」と呼ばれます。採卵鶏は産業動物ですから、効率化は仕方がない部分もあるとはいえ知ってしまうとかなりショックです。
また、鶏たちが入っているケージは、1羽につきB5程度のスペースしかありません。狭すぎるとストレスがたまるため、他の鶏をつつかないよう「デビーク」というクチバシのカットが行われています。クチバシの先がなくとも飼料は食べられるので大丈夫という理由です。徹底した合理化・効率化のおかげで、わたしたちは安価な卵という恩恵を受けています。安さの理由は工業的な動物の飼育にあるということでしょう。
最近はスーパーで「平飼卵」と表示されている卵を見かけるようになってきました。平飼卵はその名のとおり、開放された鶏舎で育てられている鶏が産んだ卵です。自由気ままに動き回り、時々オスをいじめたりして溜飲を下げている鶏たちは、狭いケージでクチバシを切られ、ストレスをためている鶏よりは幸せそうです。しかし価格は一般的なスーパーの卵の2倍以上です。
卵も畜産物ですから、鶏が食べるものによって味も色も変わります。黄身の色が濃いと栄養価が高いと思っている方が多いのですが、そんなことはなくて、単に飼料のトウモロコシのカロテン分が黄身をオレンジ色にします。トウモロコシはどんな動物でもそうですが、味わいが濃くなる、というかくどくなる傾向があります。卵の場合、黄身が卵独特の臭みを帯びることが多く、配合飼料独特の味になります。
トウモロコシ一辺倒の輸入飼料依存を解決する&飼料の国産率を高めるため、ここ数年、鶏に米を食べさせる養鶏農家が増えています。米を食べると卵の黄身が白っぽくなり、とくに子どもたちに嫌がられてあまり広まらないようです。が、米を食べると黄身が卵臭くなく、あっさりしておいしくなります。また、あえて効率の悪い平飼養鶏を選択している農家は、飼料にも独自の工夫を凝らしている事が多いことから、卵の味にもそれが現れます。
その卵の味は一般的な価格の2倍以上の価値がありますか? と言われると困るのですが、わたしは、卵の味もさることながら「産業動物である鶏の幸福の度合い」という価値で判断したいと思っています。土も食べられず動き回れずクチバシを切られた鶏の生む卵は安価ですが、知ってしまうと安いことを単純に喜べなくなりませんか。
わたしたちの世界には、知らないことがたくさんあります。わたしは、それを知ったうえでものごとを選択したいと思うのです。
(手島奈緒)
おいしいものの見つけ方 卵の巻
「卵」といえば物価の優等生と言われ続けて数十年。卵と牛乳だけは何十年経ってもそれほど価格上昇がないのが不思議です。安価で販売できる理由は、どちらも徹底した効率化と合理化にあるのですが、消費者にはあまり知られていません。卵のおいしさは、そのあたりと関係がありそうです。
安価な卵の知りたくない秘密
昨年の冬から春にかけて、鳥インフルエンザが猛威を奮っていました。どれほどの鶏が殺処分されたか、はっきりとした数字はまだ上がってきていませんが、肉用の鶏、採卵用の鶏、どちらにも被害があったようです。鳥インフルのニュースが報じられると、空から鶏舎を移した映像がよく出てきます。なんだか大きな工場みたいな鶏舎の場合と、開放されている鶏舎との2通りがあります。工場みたいな鶏舎は「ウインドウレス鶏舎」と呼ばれる鶏舎で、採卵用の鶏はその鶏舎で育てられています。
ウインドウレス鶏舎とはその名の通り窓がなく、人工的な光の中で環境が完璧にコントロールされています。ケージに飼われている鶏たちは、ひたすら飼料をついばみ卵を産みます。採卵率が落ちてくると、1週間ほど絶食させます。そうすると、鶏の羽が生え変わり、卵の品質がよくなるのです。これは「強制換羽」と呼ばれます。採卵鶏は産業動物ですから、効率化は仕方がない部分もあるとはいえ知ってしまうとかなりショックです。
また、鶏たちが入っているケージは、1羽につきB5程度のスペースしかありません。狭すぎるとストレスがたまるため、他の鶏をつつかないよう「デビーク」というクチバシのカットが行われています。クチバシの先がなくとも飼料は食べられるので大丈夫という理由です。徹底した合理化・効率化のおかげで、わたしたちは安価な卵という恩恵を受けています。安さの理由は工業的な動物の飼育にあるということでしょう。
卵の味が違うのは鶏の幸福度の違い?
最近はスーパーで「平飼卵」と表示されている卵を見かけるようになってきました。平飼卵はその名のとおり、開放された鶏舎で育てられている鶏が産んだ卵です。自由気ままに動き回り、時々オスをいじめたりして溜飲を下げている鶏たちは、狭いケージでクチバシを切られ、ストレスをためている鶏よりは幸せそうです。しかし価格は一般的なスーパーの卵の2倍以上です。
卵も畜産物ですから、鶏が食べるものによって味も色も変わります。黄身の色が濃いと栄養価が高いと思っている方が多いのですが、そんなことはなくて、単に飼料のトウモロコシのカロテン分が黄身をオレンジ色にします。トウモロコシはどんな動物でもそうですが、味わいが濃くなる、というかくどくなる傾向があります。卵の場合、黄身が卵独特の臭みを帯びることが多く、配合飼料独特の味になります。
トウモロコシ一辺倒の輸入飼料依存を解決する&飼料の国産率を高めるため、ここ数年、鶏に米を食べさせる養鶏農家が増えています。米を食べると卵の黄身が白っぽくなり、とくに子どもたちに嫌がられてあまり広まらないようです。が、米を食べると黄身が卵臭くなく、あっさりしておいしくなります。また、あえて効率の悪い平飼養鶏を選択している農家は、飼料にも独自の工夫を凝らしている事が多いことから、卵の味にもそれが現れます。
その卵の味は一般的な価格の2倍以上の価値がありますか? と言われると困るのですが、わたしは、卵の味もさることながら「産業動物である鶏の幸福の度合い」という価値で判断したいと思っています。土も食べられず動き回れずクチバシを切られた鶏の生む卵は安価ですが、知ってしまうと安いことを単純に喜べなくなりませんか。
わたしたちの世界には、知らないことがたくさんあります。わたしは、それを知ったうえでものごとを選択したいと思うのです。
(手島奈緒)