{ 食にまつわるお話 }2019.11.12
ごま油、ナタネ油、綿実油、紅花油、コーン油、グレープシードオイル、オリーブオイルなど、油にはいくつか種類があります。これらは「植物油」と呼ばれ、オリーブオイル以外は穀物から油分を絞って作られたものです。
穀物には油分が含まれています。ナタネに含まれている油分は40%、ゴマは50%で、ダイズは20%程度です。ゴマ油を1kg絞ろうと思ったら、ゴマが2kg必要ということですから、油には大量の穀物が必要なのです。そのため、穀物の自給率がとても低い日本では、油の原料作物であるトウモロコシ、ダイズ、ナタネ、ワタ(綿実)は、ほぼ海外からの輸入作物(遺伝子組み換え作物)が使われています
えっ! そうなの? と驚く方が多いのは、油には遺伝子組み換えの表示義務がないためでしょう。コーン・綿実・ナタネ・大豆油はほぼ遺伝子組み換え作物が原料です。日本の食は遺伝子組み換え作物無くしては成り立たないのです。
「圧搾一番絞りナタネ油」というとてもおいしい油があります。その油を製造している石橋精油さんに聞いてみました。ナタネ油はこんなふうに作られています。
1.重石でナタネを押しつぶす
ナタネから油を絞ります。ピンぼけですんません。
まず重石(のようなもの)でぎゅーっと押しつぶして油分を絞ります。この工程でナタネの油分40%のうち30%の油が絞れますが、残りの10%は絞りかすに残ったまま。したがって、残りの10%を絞る必要があります。ここで登場するのが、ノルマルヘキサンという溶剤です。
2.ノルマルヘキサンで油分をさらに絞り取る
1の絞りかすにノルマルヘキサンを混ぜます。残りの10%の油はノルマルヘキサンに溶け出し、ノルマルヘキサンとナタネ油の混合物ができます。ここからノルマルヘキサンのみを取り出すため、120度程度に加熱してノルマルヘキサンを揮発させます。これで油だけが残ります。
3.不純物を取り除く
最初に絞った30%の油と溶剤で取り出した10%の油を混ぜて、レシチンなどのタンパク質(不純物)の除去を行います。タンパク質は酸にくっつくので、リン酸・シュウ酸を添加し、同時に酸を除去するため、苛性ソーダを添加します。このさまざまな物質が混ざった油をさらに湯水で洗い、不純物の除去が終了です。
4.ろ過&脱臭
3の油をカオリンという粘土のようなものでろ過・脱臭して、油の完成です。オリーブオイル以外はだいたいこのような工程で作られているようです。
しぼりたての油から完成するまで。色が全然違うんですねー。
ナタネ油(キャノーラ油)は1リットル300円程度で売っていますが、これを国産ナタネだけで作るとなんと! 1,000円以上になってしまいます。天ぷらやフライで日常的に使うにはちょっとむずかしい価格ですね。その理由はふたつあります。まず、日本でナタネを栽培してもお金にならないこと。だからナタネを栽培する人がいないことです。
国土の70%が森林で、自然豊かな美しい日本ですが、なにしろ平野が少ないため、平たい土地ではまず米が生産されています。儲かるからと山地を切り開き、棚田を作ってまで栽培した戦後すぐの時代ならまだしも、今や米は大規模化しないとお金にならない作物。主食の米を作っても儲からないのですから、それよりも安いその他の穀物など作れるはずもありません。ということで、穀物は広大な平たい土地がある海外からの輸入に頼らざるを得ないのです。
1997年に米国で遺伝子組み換え作物がデビューして以降、日本の油糧作物と畜産飼料はほぼ遺伝子組み換え作物になりました。ものすごい量の遺伝子組み換え作物が輸入されていますが、食べているわたしたちはあまり意識していません。なぜこんなに輸入が必要なのか、なんて考えてみるのもいいかもしれません。
さて、そんな油ですが、なかには非遺伝子組み換え作物を使っている精油メーカーもあります。お話を聞かせていただいた石橋製油さんもそのうちのひとつです。
石橋精油の油は、圧搾した一番絞りの油のみを使うため、ノルマルヘキサンの添加がありません。さらに、タンパク質を吸着する酸には食用酢を使い、苛性ソーダも使いません。油の製造工程で使われる化学物質を極力排除しているこの油の不思議は、ただの油なのにとてもおいしいこと。また、天ぷらにしても油がへこたれないことです。
製造方法によって油も味が変わるのだなーとしみじみ驚いてしまいます。しかし、非遺伝子組み換え作物を使い、40%絞れるところを30%しか絞らない&化学物質を使わないなどの理由で、価格は一般の油の約3倍です。おいしいものはお値段もそれなりになってしまうのですね。逆に、安価なものにはそれなりの理由があるということです。
石橋製油の油は、カンガルー島・南オーストラリア州で栽培されている非遺伝子組み換えナタネを使っています。この油を買うと、カンガルー島や南オーストラリア州で非遺伝子組換えナタネを栽培している農家を支援することになります。おいしい油を食べて、非遺伝子組み換え作物を支援する、とてもステキなことのように思えます。
石橋精油 WEBサイト http://yamaishi.jp/
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コラム 手島 奈緒
株式会社大地(大地を守る会・現オイシックス・ラ・大地)で編集・広報・青果物仕入れなどを担当し、
おいしいものばかり食べていたせいかおいしいものが大好き。
2010年よりフリーランスライターとして農と食についての情報を発信中。
WEB ほんものの食べものくらぶ https://hontabe.com
BLOG ほんものの食べもの日記 https://hontabe.blog.fc2.com/
製造方法によって味が変わる?-ナタネ油について調べてみました
毎日のお料理に使う油。スーパーには、オリーブオイルやごま油などのさまざまな油が並んでいます。そう言えば、油ってどのように作られてるんだろう? なんて考えたことはありませんか? 知っているようで知らない「油」について調べてみました。油の原料穀物はほとんどが遺伝子組み換え作物
ごま油、ナタネ油、綿実油、紅花油、コーン油、グレープシードオイル、オリーブオイルなど、油にはいくつか種類があります。これらは「植物油」と呼ばれ、オリーブオイル以外は穀物から油分を絞って作られたものです。
穀物には油分が含まれています。ナタネに含まれている油分は40%、ゴマは50%で、ダイズは20%程度です。ゴマ油を1kg絞ろうと思ったら、ゴマが2kg必要ということですから、油には大量の穀物が必要なのです。そのため、穀物の自給率がとても低い日本では、油の原料作物であるトウモロコシ、ダイズ、ナタネ、ワタ(綿実)は、ほぼ海外からの輸入作物(遺伝子組み換え作物)が使われています
えっ! そうなの? と驚く方が多いのは、油には遺伝子組み換えの表示義務がないためでしょう。コーン・綿実・ナタネ・大豆油はほぼ遺伝子組み換え作物が原料です。日本の食は遺伝子組み換え作物無くしては成り立たないのです。
ナタネ油を思い切り絞るにはどうするか
「圧搾一番絞りナタネ油」というとてもおいしい油があります。その油を製造している石橋精油さんに聞いてみました。ナタネ油はこんなふうに作られています。
1.重石でナタネを押しつぶす
ナタネから油を絞ります。ピンぼけですんません。
まず重石(のようなもの)でぎゅーっと押しつぶして油分を絞ります。この工程でナタネの油分40%のうち30%の油が絞れますが、残りの10%は絞りかすに残ったまま。したがって、残りの10%を絞る必要があります。ここで登場するのが、ノルマルヘキサンという溶剤です。
2.ノルマルヘキサンで油分をさらに絞り取る
1の絞りかすにノルマルヘキサンを混ぜます。残りの10%の油はノルマルヘキサンに溶け出し、ノルマルヘキサンとナタネ油の混合物ができます。ここからノルマルヘキサンのみを取り出すため、120度程度に加熱してノルマルヘキサンを揮発させます。これで油だけが残ります。
3.不純物を取り除く
最初に絞った30%の油と溶剤で取り出した10%の油を混ぜて、レシチンなどのタンパク質(不純物)の除去を行います。タンパク質は酸にくっつくので、リン酸・シュウ酸を添加し、同時に酸を除去するため、苛性ソーダを添加します。このさまざまな物質が混ざった油をさらに湯水で洗い、不純物の除去が終了です。
4.ろ過&脱臭
3の油をカオリンという粘土のようなものでろ過・脱臭して、油の完成です。オリーブオイル以外はだいたいこのような工程で作られているようです。
しぼりたての油から完成するまで。色が全然違うんですねー。
日本の油が遺伝子組み換え穀物でつくられている理由
ナタネ油(キャノーラ油)は1リットル300円程度で売っていますが、これを国産ナタネだけで作るとなんと! 1,000円以上になってしまいます。天ぷらやフライで日常的に使うにはちょっとむずかしい価格ですね。その理由はふたつあります。まず、日本でナタネを栽培してもお金にならないこと。だからナタネを栽培する人がいないことです。
国土の70%が森林で、自然豊かな美しい日本ですが、なにしろ平野が少ないため、平たい土地ではまず米が生産されています。儲かるからと山地を切り開き、棚田を作ってまで栽培した戦後すぐの時代ならまだしも、今や米は大規模化しないとお金にならない作物。主食の米を作っても儲からないのですから、それよりも安いその他の穀物など作れるはずもありません。ということで、穀物は広大な平たい土地がある海外からの輸入に頼らざるを得ないのです。
1997年に米国で遺伝子組み換え作物がデビューして以降、日本の油糧作物と畜産飼料はほぼ遺伝子組み換え作物になりました。ものすごい量の遺伝子組み換え作物が輸入されていますが、食べているわたしたちはあまり意識していません。なぜこんなに輸入が必要なのか、なんて考えてみるのもいいかもしれません。
非遺伝子組み換え作物使用&一番絞りの油
さて、そんな油ですが、なかには非遺伝子組み換え作物を使っている精油メーカーもあります。お話を聞かせていただいた石橋製油さんもそのうちのひとつです。
石橋精油の油は、圧搾した一番絞りの油のみを使うため、ノルマルヘキサンの添加がありません。さらに、タンパク質を吸着する酸には食用酢を使い、苛性ソーダも使いません。油の製造工程で使われる化学物質を極力排除しているこの油の不思議は、ただの油なのにとてもおいしいこと。また、天ぷらにしても油がへこたれないことです。
製造方法によって油も味が変わるのだなーとしみじみ驚いてしまいます。しかし、非遺伝子組み換え作物を使い、40%絞れるところを30%しか絞らない&化学物質を使わないなどの理由で、価格は一般の油の約3倍です。おいしいものはお値段もそれなりになってしまうのですね。逆に、安価なものにはそれなりの理由があるということです。
石橋製油の油は、カンガルー島・南オーストラリア州で栽培されている非遺伝子組み換えナタネを使っています。この油を買うと、カンガルー島や南オーストラリア州で非遺伝子組換えナタネを栽培している農家を支援することになります。おいしい油を食べて、非遺伝子組み換え作物を支援する、とてもステキなことのように思えます。
石橋精油 WEBサイト http://yamaishi.jp/
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コラム 手島 奈緒
株式会社大地(大地を守る会・現オイシックス・ラ・大地)で編集・広報・青果物仕入れなどを担当し、
おいしいものばかり食べていたせいかおいしいものが大好き。
2010年よりフリーランスライターとして農と食についての情報を発信中。
WEB ほんものの食べものくらぶ https://hontabe.com
BLOG ほんものの食べもの日記 https://hontabe.blog.fc2.com/