放牧されているジャージー牛

{ 食にまつわるお話 }2021.05.30

産業動物はどのように育てられているか

母豚のストール
ストールに入っている母豚。左側の空きスペースに子豚スペースがあり、子豚を踏み潰さないように配慮されています。ドイツではストールを使わずに母豚の体調管理をするしくみが作られているそうですが、それを採用するにはたいへんとてもお金がかかるので現実的ではないとのこと。お肉を取る豚については健康的に育てられていても、母豚はどうなのかとか知ってしまうと疑問が尽きません。


「家畜」と呼ばれる動物たちがいます。牛や馬などの使役動物、犬、猫などのペットが思い浮かびますが、そのなかに「産業動物」と呼ばれる動物がいます。お肉になったり卵を産んだり乳を出したりする動物のことで、牛、豚、鶏などがこれにあたります。昔は肉や卵を自分たちで育てて食べていましたが、ここ100年くらいの間に大規模で効率よく動物を育てお肉や卵を作る技術が進みました。これは食べ物を安価で提供することが求められるようになったから。消費者は「育てて商品にする」現場を見ることなく、それらを食べています。

わたしはたまたまこの動物たちを育てている現場について知る機会がありました。知るといろいろと考えさせられます。知らないほうがしあわせなのかもと思うこともあります。が、わたしたちは食べることで産業動物の命を自分の血と肉にしています。であれば、知っておいたほうがいいのではないかとも思います。今回は、産業動物を育てる場で行われていることを、知っていることだけ挙げてみたいと思います。自分が食べている動物がどのように、なぜ、そうされているのかを知りたい方は読んでみてください。何を感じるか、考えてみてください。

採卵鶏


ケージ 
鶏を入れている小さな檻。ケージ飼いでは一羽あたり450平方センチメートル(だいたいB5サイズ)の広さが一般的。バタリーケージとも呼ばれます。養鶏場ではケージを何段にも積み重ねて鶏が飼育されています。鶏たちはそこで日がな一日餌を食べ卵を産んでいます。

デビーク クチバシの先をカットすること。狭いケージで飼われているとストレスで他の鶏をつつき、どうかするとつつき殺すこともあります。その防止のためにカットします。先がカットされていても鶏は餌を食べることができるので、食べることに影響はないそうです。

強制換羽 卵の品質を向上させるために行われる2週間程度の絶食。水も与えない場合、水は与える場合など農家によって対応はまちまち。この絶食により羽が抜け替わり、卵の品質が向上します。強制換羽をしないで新しい鶏を更新するとお金がかかるので、それよりも効率がいいのです。

ウインドウレス鶏舎
名前の通り窓のない鶏舎。光も採卵も自動でコントロールされています。鶏がこの鶏舎から出られるのは廃鶏にされるとき。とか思うとグッと来ますが、産業動物とはそういうものです。閉鎖系のため鳥インフルエンザのリスクが低いとされていましたが、今年の鳥インフルの大流行を見るとなんとなくそうでもないようです。


去勢 オスが性的な成熟をすると肉に臭みがでるため、その防止のために行われます。以前見学した際に「麻酔するの?」と聞いて失笑をかいました。子豚の睾丸にカミソリで切れ目を入れ中身を取り出し、ヨードチンキをシュッと吹きかけて終了です。麻酔はしません。他の農家もこのようにしているのかどうかは知りませんが、同行していた男性社員が卒倒しそうになっていました。

ストール 子豚を生む母豚のみが入っている小さな小さな檻。その中で向きを変えることはおそらくできません。妊娠した母豚が豚舎を気ままに歩き回ると一日に必要な食餌量の把握ができず管理ができないことから、母豚のみ狭い檻に入れられています。いい子豚をたくさん産み、流産などをしないよう母豚は管理される必要があるからで、アニマルウエルフェアの観点からストール禁止とかになるとたぶん養豚家の皆さんは困るんじゃないかと思います。

尾切り くるんと丸い豚のしっぽ。実はけっこう長いのですが、子豚のときに切ってしまいます。切らずにいると「尾かじり」が起きやすくなるためです。かじられて血が出ると、それをなめにいろんな豚が寄ってきて傷口が広がり、悪くすると感染症などを起こすのだそう。豚の尾の本当の長さを見たことはないのですが、尾切りをされていない羊は見たことがあります。ながーい毛むくじゃらの尾に糞がついて非常に不衛生でしたが、それがほんとうの姿だと思うといろいろ考えさせられます。

乳牛


除角 牛の角はオスにもメスにも生えています。ほぼ切られているので、成体でどのような角なのか見る機会はほとんどありません。この角を残しておくと人間が大ケガをします。頭の一振りで動脈を切られると死ぬこともあるので危険なのです。除角をしない酪農家もいらっしゃり、すごいなと思います。肉牛については除角してたりしてなかったりなので、あまりよく知りませんが、どうなのかな。

つなぎ飼い 牛を繋いで飼うこと。牛舎にスタンチョンという器具やロープなどでつながれています。牛は自由に動け回れないのですが、牛舎の面積が狭くて済む、管理がしやすいことなどのメリットがあります。ホルスタインが放牧されている的な映像を時々見かけますが、基本的に乳牛は乳を出し始めるとほぼ牛舎にいます。外にいるホルスタイン種の写真を見たら乳房を見てみましょう。まだ乳を出してない乳房の小さな牛(子牛)が多いと思います。ホルスタイン放牧写真はイメージ写真と思ったほうがいいでしょう。

肉牛


去勢 豚の項目を参照。見たことがないのですが、肉牛の場合、雄牛のほうが早く大きくなり肉も多いので去勢牛のほうが効率がいいそうですが、おいしいのはメスと言われますがどうでしょうか。

ビタミンコントロール 肉の色を良くするとか脂肪交雑率を上げるとかのために行われているそうですが、肥育農家に聞くと少しずつ違う答が返ってくるので目的がイマイチはっきりしません。とにかく肉質の向上のために行われているようです。夜盲症になるほど切ると関節に膿がたかるなどの障害が出たりするので最近はそこまではされていないと聞きました(お肉屋さんからの伝聞情報)。
東日本大震災時に福島産のワラを食べて他地域の牛肉が出荷停止になったことがあり、このときにビタミンコントロールのことを知りました。肉牛の仕上げにワラを与えるのは、脂肪の色を白くして真っ白な霜降り肉をつくるためだそうです。別に脂肪は黄色くてもいいような気がしますが、ダメなのでしょうか。

まずは知ることから始めよう。


わたしたちは日々なにかを食べて命をつないでいます。他の生き物の命の欠片を食べることもあります。わたしたちがそれらを飼育しているわけではなくても、わたしたちにはその命に対する責任があるとわたしは考えています。
お肉や卵を安価に作るために何が行われているのか。まずは「知ること」から始めてみてはいかがでしょう。