{ 食にまつわるお話 }2019.08.16

タネなしぶどうとタネありぶどう、どっちがおいしい?|コラム:手島 奈緒

ぶどうの歴史を変えたタネなしデラ


7月下旬から店頭に並び始める「タネなしデラウェア」。
子どものころ大好きな夏休みのおやつでした。
実はデラウェアは昔、8月下旬に熟すタネありぶどうだったことをご存知ですか? 

甘くておいしいけど、収穫間際に果実が割れてしまう作りにくいぶどうだったデラウェアに、ジベレリンという植物ホルモン剤を使って収穫時期を早め、裂果を防ぐ技術が生まれたのが昭和36年。
作りやすくなったタネなしデラは、価格も下がり、庶民のぶどうとして親しまれるようになりました。

タネが無くなったのはおまけのようなものだったのですが、タネなしデラは、現在のタネなし全盛時代のきっかけを作ったぶどうとも言えるかもしれませんね。

消費者の嗜好+農家の高齢化=タネなし全盛


タネありぶどうには軸と種をしっかりと結び付けている部品があります。タネなしにはこれがなく、皮一枚で軸とつながっているので、粒が軸から外れる「脱粒」が起こりやすくなります。脱粒を防ぐために熟度が上がる前、早めに収穫されています。


タネなしぶどう全盛の昨今では、シャインマスカットのように、タネなし処理前提で開発されている品種が多く、タネありの評判は消費者にもあまりよくありません。しかし実は、本来その品種も持っている味、香り、甘み、コク、すべての面において、タネありぶどうのほうがおいしいのです。

「タネありを作りたい」という農家は多いのですが、JAも市場も消費者もタネなしが大好き。
また、タネありぶどうの剪定(良いぶどうをならせるために枝を切る作業)がとてもむずかしいことなどの理由から、作る人は減っていくばかりです。市場で売りやすく剪定もかんたんなタネなしぶどうをみんなが作るのはしかたがない、とは言え、タネあり巨峰のおいしさを知ってしまうと、これがなくなるのはなんとも残念な気がします。

 「ぶどうにはタネがない」が新しい日本の常識になりつつある昨今、タネありぶどうは絶滅危惧種と言えるかもしれません。もしもお店でタネありぶどうを見つけたら、ぜひ食べてみてください。


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コラム 手島 奈緒

株式会社大地(大地を守る会・現オイシックス・ラ・大地)で編集・広報・青果物仕入れなどを担当し、
おいしいものばかり食べていたせいかおいしいものが大好き。
2010年よりフリーランスライターとして農と食についての情報を発信中。
「そのものがどうつくられているか」「どう栽培されているか」に興味があり、
あまりの偏りぶりに「食材原理主義者」とか呼ばれてめんどくさがられることも。
将来的に自給自足生活をめざして、家庭菜園で野菜の自給&ハンター修行中。

WEB ほんものの食べものくらぶ https:/hontabe.com
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