{ 食にまつわるお話 }2019.10.13

農薬の何がダメなの? と聞かれたら

農薬は誰にとって一番危険?


コラム「野菜や果物に農薬はどれぐらい使われているの?」をFacebookで紹介したところ、「農薬ってまいたら悪いの? 無農薬のほうがいいの?」というご質問をいただきました。今回はそれについて考えてみたいと思います。


りんご畑の農薬散布風景。白い霧状のものが農薬です。早朝・無風の好天が農薬散布に最適な条件と言われています。

上記の写真を見てください。果樹類に農薬を散布するこの車は「スピードスプレイヤー(SS)」と呼ばれます。タンクに数百リットルの農薬を入れ、後ろのファンで霧状にした農薬を散布します。SSを運転している農家は雨合羽とマスク、ゴーグルをつけていますが、霧状の農薬はかかりまくりです。

残留農薬とかどうとかよりも、一番危険なのはまいてる人だということがこの写真を見たらよくわかります。昔は農薬散布後にお酒を飲んでお風呂に入って倒れて入院、なんていう事件がよく起きたそうです。減農薬栽培を始めた果樹農家には、親戚や家族のこういった事故がきっかけと言う人も多いことから、農薬散布は今も昔もかなり危険なことがわかります。

伝聞情報ですが、アメリカでは、農薬散布後にその園地に入ってはいけない、言ってみれば休薬期間のようなものが定められているそうです。アメリカは農園の規模が大きく、雇われる労働者が多いため、農薬の被害から人を守るために必要な法律なのでしょう。ちなみに日本ではそういう法律はなく「合羽、ゴーグル、マスクを着用」という指針のみ。毒性の高い農薬をまいている農家は大変だと思います。

ひとことでは判断できない農薬の危険度


さて、農薬にもいろいろ種類があります。例えば殺虫剤では、その場の虫を全て殺す絶滅系農薬、天敵に害がない・特定の害虫にしか効かない農薬などがあります。また、効き方もいろいろで、ガス化してその場にいる無視を全て殺すもの、作物に浸透し後々も効果があるもの、雨が降ると全部流れてしまうものなどがあります。これらの農薬をうまく組み合わせて農薬散布のカレンダー、防除暦は作られています。

毒性が高い農薬は残留性も高いことが多いのですが、そういう農薬を作物の生育の始めのころに一度まくと、そこで害虫・病原菌の密度を下げられるというメリットがあります。病害虫の密度が下がれば、後半に使う農薬を抑えることができるため、減農薬栽培が可能になったりします。また、毒性の高い農薬を初期に使うことで残留農薬の値も下げることができます。

このように農薬も使い方ひとつで残留値を抑えることができますし、散布量や数を減らすことも可能です。いちがいに農薬のあれが危険とかこれは安全とか言うのはむずかしいのです。

農薬を散布しない作物の価値は「安全」だけ?



益虫は農薬に弱く、農薬で死んでしまうとなかなか戻ってこないことが知られています。これらの天敵を温存し、作物栽培の助けにする減農薬栽培の技術もあります。

以前天敵の研究者に、日本の農薬の使い方や量を国際会議の場で名指しで批判されたという話を聞いたことがあります。日本の農薬の使用量、数ともに多いのは確か。海外の研究者からは「信じられない」という言葉も出たそうです。農薬を減らす努力は必要だと思うのですが、なぜかそれはあまり進んでいません。天敵や微生物の力を借りて減農薬栽培を実践している人たちもいますが、一般的にはまだまだむずかしいのかもしれません。

わたしは、必要なら農薬は使うべきだと思います。しかし、毒物を環境中に放出するリスク、虫や小鳥、微生物など生態系への影響、まく人の健康などを考えると、できるだけ農薬を使わず栽培している人のものを食べたいと考えています。そういう作物を作るには技術も努力も必要ですから、そういう人のものを買いたいと思うのです。

というようなことがわかると、農薬を散布せずに作物を栽培している人や、有機農業を営む人たちはスゴいと思います。その価値をたんに「安全」という評価だけで判断するのは、とても残念なこと。生態系や水資源などの環境に与える影響や、農家が安全に作物を栽培できることなども合わせて、全体的な評価がされる日がいつか来ることを願っています。

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コラム 手島 奈緒

株式会社大地(大地を守る会・現オイシックス・ラ・大地)で編集・広報・青果物仕入れなどを担当し、
おいしいものばかり食べていたせいかおいしいものが大好き。
2010年よりフリーランスライターとして農と食についての情報を発信中。

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